よくよく考えれば帝はロリコン

 彼女との再会は案外早く訪れた。


「数日前からこちらへ入内してきた、藤だ。お前の母によく似て美しくてな……」


 彼女と話した日から数日後。父である帝が、俺に紹介をしてくれた。よほど思い入れが強いのか、その語りには熱がこもる。

 帝が話に夢中になる中、藤が少し口角を上げて小さく手を振ってくれる。

 俺は何だか気恥ずかしくなって姿勢を正して明後日の方を向く。帝に「話を聞かんか」と向き直させられて、藤が小さく笑いに震えているのがわかった。


「お前には乳母はいたが、本当の母がいなかっただろう?それが可哀想でなぁ……藤のことは、母と思って接しなさい」


 見れません。めちゃくちゃイロイロしたいです。

 そう言いかけた体をどうにか押さえつけて、はいと頷く。なるほど、だから「貴方は大丈夫」だったのか。


「そうそう、お前は七つでありながらもう書物に興味があったな。藤はその方に詳しい。教えてもらいなさい」


 帝の提案は、願ったり叶ったりというところだ。それなら俺は人目を気にせず彼女に関わることができる。


「それでは、早速教えてもらいたいことがあります、藤様、よろしいですか?」


 俺がそう尋ねると、藤は少し驚いた顔を浮かべてから、にっこりと笑って「いいわよ、ついていらっしゃい」と俺をまた彼女の部屋へと招く。


「意外だわ、呼び捨てをしないだなんて」

「それは、父上の前ですから」

「そう、いい子なのね」


 藤が少しばかり機嫌が悪そうに言う。何かがあるのはわかったが、その何かまではわからないし、今の俺に何ができると言うわけでもないので、深く突っ込むことはやめにした。


「それで、聞きたいことって?」


 部屋に入ると早速、藤が本題を聞いてきた。

 俺は持ってきていた「まじないの書」を取り出して、机の上に置く。


「この本の読み方を教えてください」


 前回、見様見真似で笛を吹くことができたとはいえ、この本の読み方がわからないので、あれ以外を吹くことが出来ないのだ。これに笛の演奏法が書いてあることから、楽譜に準ずるものがあることはわかるが、そこまでだ。俺の前世は吹奏楽部じゃない。

 それに加えて、俺は笛を持たされていない。強請ればもらえるかもしれないが、大人ぶりたいと思われるのも癪なので、それ相応の歳になるまでは我慢しようと決めている。自分のものをもらうまでは藤の物を貸してくれるかもしれないし。

 だが、それとは別にこの本の読み方を知りたい。


「……いいわよ、教えてあげる」


 藤は少し考える素振りをした後、笑ってそう答えてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る