書初め
「まあ、光の君よ」
「ほんと。光のように美しいわ……」
廊下を歩いていると、不意にそんな女性の声が聞こえた。
俺はあれから七年の月日が経ち、父親から「
そして、鏡がないため自分ではよくわからないが、俺は端正な顔立ちをしているらしく、周囲からは「光の君」と呼ばれている。ここまでくると完全にあれだ、源氏物語みたいな世界だ。
とはいえ、俺は内容をほとんど知らないので、知識無双をしようにもできるわけがない。
ひとまず、この七年で分かったことをまとめよう。
まず、時代背景。これはわかりやすかった。身に纏っている服装や、今俺が置かれている状況的に見て、平安時代くらいと言ったところか。
ただ、ところどころ平安時代とは思えない部分があるところからして、安易に平安時代にタイムリープした、とは考えづらい。
次に、俺の立場。俺は帝の愛人、桐という女性の子であり、忘れ形見。帝というのは、この国で一番偉く政治を行なっている。
俺は愛人の子とは言え帝の息子。それに加えて、母である桐は帝から相当気に入られていたらしく、忘れ形見である俺はかなり特別に扱ってくれている。
最後に、今後の方針だが……まず事実として、帝の子であるということは、“世継ぎ”となる者を用意する必要があり……つまるところ、女の子を何人でも侍らせることができる。
ハーレムを目指していた俺にとって、ここまで好都合なことはない。顔はイケメン、愛人はいくらでも囲ってよし、愛人の子なので政治に関わることは恐らくない。
俺は今度こそ、完璧なハーレムを作る。前世ではヤンデレに引っかかったが、あの時は時代が時代。こっちの常識なら俺が何人女を囲おうとも問題ない!
と、ここまで張り切ったはいいものの、どうやって出会いを求めたものか。五歳ということもあってできることは高が知れている。
思考を巡らせながら、ふらふらと歩いていると、人気の少ないところへ来てしまった。
ここは帝の家ということもあって、半端じゃなく広い。まだ俺も完全には把握しきれていない。
「ここは……書庫か?」
見渡す限りの本棚いっぱいに、本が綺麗に並べられている。
ちょうどいい、俺が置かれている状況はわかっても、外のことは知ることができていなかった。ここで知識を得るのも大事なハーレムへの一歩。賢い男はモテるのだ。
「けど、高いところの本は流石に取れないな……」
とりあえず、手頃な高さにある本を適当に取ってみる。
表紙には「まじないの書」と書かれている。まじない……魔法の類か?
「……読めない」
ページを巡ってみると、それ完全に知らない言語だった。それもそうか、ここは異世界、言語が日本語なはず……あれ、でも表紙は読めたんだよな。
他の本はどうかとまた適当に取り出してみると、今度の本は読むことができた。文体としては完全に古文って感じだ。しっかり漢字も使われている。だが、どうしても最初の本と同じ言語のものは見つからない。
字が潰れている、というわけでもなさそうだし……ふむ、ならこの本だけを持って父親である帝に聞いてみよう。国の王ならば知っているはず。
俺は取り出した本を直して、「まじないの書」と書かれた本だけを持って部屋を後にする。
来た道を戻ればいいだけだ、そう決めつけて俺は廊下を疾走を始めた。
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