第36話 大地に奇跡が!

     (集中治療室内)


「大地、大地、もう一度目を開けて!」

とひとみが泣きながら言うと、


「大地、死ぬんじゃないぞ。パパもママも大地が死んだら許さないからな」

と幸雄が言った。


ひとみは、その後もずっと大地の手を握り続けていた。


「ひとみ、ジャガーズが優勝したよ。田村選手がサヨナラホームランを打ったみたいだ。大地に見せてあげたかったね」と幸雄が言うと、


「あなた!」と大きな声を出した。


「どうした、そんな大きな声を出して」


「大地の手が動いたの」


「嘘だろ?」


「嘘じゃないの。こちらに来て」

とひとみが興奮気味に言うと、


幸雄は大地のところに来て、大地の手を握ると少しではあったが、大地が握り返したのだ。


「大地、大地、パパだよ。わかるか?」


そして、その数分後に大地はゆっくりと目を開けたのだ。ひとみはすぐにナースコールを押して、

「大地が目を開けました。すぐに来てください」


「パパ、どうしたの? パパとママ、どうして泣いているの?」


「なんでもないよ。すごく嬉しいことがあったから」

と幸雄が言うと、


「タムがホームランを打ったこと?」


「どうして、タムがホームランを打ったことを知っているの?」

とひとみが聞いた。


「だって、タムがホームランを打ったのを見てたの。僕、タムと約束をしたんだよ」

と大地は言った。


幸雄は、大地がきっと夢を見ていたのであろうと思ったのだが、そのことは大地には言わなかった。そして、現実と重なっているところがあったが、それは単なる偶然だと二人は思っていたのだ。


阿部医師と看護師が急いで駆けつけた。そして、大地の脈拍などを測ると、


阿部は信じられないような顔をして、

「奇跡が起きました。大地君は回復されています。ただ、理由は分からないのですが」と阿部は二人に伝えた。


「大地、助かって良かったね」

とひとみは涙を流し大地を抱きしめた。

 

「ママ、嬉しいことがあったから泣いているの?」

と大地が聞いた。


「そうよ。大地が病気を退治してくれたから嬉しかったの」

とひとみが言った。


「だったら、ママ、タムにお礼を言ってね」


「どうして、タムにお礼を言うの?」


「だって、タムと約束をしたの。タムがホームランをたくさん打ったら、また会おうねと言ったんだよ」と大地が言った。



幸雄とひとみは、大地の話をほとんど信じてはいなかったが、今までいろいろと田村にはお世話になったということもあり、明日連絡を入れることにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る