第27話 夢の中で

7月10日よりオールスターゲームが始まる。


田村の前半の成績、人気投票があまり伸びなかったため、メンバーに選ばれなかった。


しかしながら、監督推薦という話もあったが、田村は丁重に断った。



大地の体調が急変したのは、大阪ドームへ行ってから五日後のことであった。高熱が続き、大地はずっと寝たきりとなってしまったのだ。



7月16日の試合が終わり、田村は宿舎のホテルへ戻りベッドで横たわっていたが、知らないうちに眠ってしまい夢を見ていた。


夢の中で、あの大地とキャッチボールをしていたのである。


「タム、誕生日のプレゼントありがとう。すごく嬉しかった。もう一回、タムのホームランが見たいの」と大地が言った。


「分かったよ。また、ホームランを打つから応援に来てね」


「もう、応援に行けないの。もうじき死ぬの。でも怖くないよ」


「いったい何を言っているの、大地君」


「僕がママのお腹の中にいたとき、トラックがパパの車にぶつかったの。僕は死んでしまったけど、パパとママは大丈夫だったから嬉しかった。でも、ほんとは僕、死にたくない」



私は耳を疑った。まさか、6年前の事故?


「大地君は、死なない。絶対に治るから、そんなことを言ってはだめだよ」


「うん分かった。でも、タムにお願いがあるの」


「いいよ、何でも言ってごらん。僕ができることなら何でもいいよ」


「ほんとに?」と大地は微笑んで言うと、


「約束するよ」


「タムが1番になってほしいの」


「1番というのは、何を1番になればいいのかな?」


「ホームランのことだよ。タムがホームランをたくさん打ってくれたら、僕はがんばって・・・・・」と最後の大地の言葉が聞こえなかったため、もう一度、田村が聞こうとした。


すると、大地は笑顔で手を振ると、田村からだんだんと遠ざかっていき、終いには田村の前から消えてしまったのだ。


  

そこで、田村は目が覚めた。 時計を見ると、まだ朝の3時30分であった。


 

翌朝、田村は昨日の夢のことが気にかかり、大地の家へ電話を入れた。


「おはようございます。田村と申します」


「田村さんですか? おはようございます」とひとみが言うと、


「朝早くからすみません。その後、大地君の様態はいかがですか?」


「実は、一昨日の夕方から高熱が続いて、今は集中治療室に入っているのです。今から主人と病院へ行くところでした。それから、遅くなりましたが、大地の誕生日に記念のプレゼントを頂きありが とうございました。一番のいい想い出になりました」

とひとみが辛く言ったため、


「村山さん、どうしてそんな過去形で話すのですか? 大地君は必ず元気になりますから、大地君の前では悲しい顔をしないであげて下さい」と言って電話を切った。


   

田村は夢で見た大地のことは、あえて話さなかった。

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