第4話

 水の流れる音を聞きながらうつ伏せに寝転んで、テーブルの上のあなたの携帯電話とゴムを眺めた。


 奥さんに連絡していたんでしょう。

 残業で遅くなるとか、出張や研修だって言ったかもしれない。この会社はそういった社外活動が本当に多いし、あなたと研修に行ったことは、本当にあるから。新入社員用の研修に、あなたがリーダーとして参加していた。


 あの夜が、すべてのはじまりだった。


 入社して間もない頃、同僚たちになじめず職場の隅にいたあたしを、あなたはずっと気にかけてくれた。励まして応援してくれた。ふと顔をあげると、あなたはいつもあたしに笑顔をむけてくれた。嬉しかった。


 そんな最中の研修だった。

 最終日の親睦会でお互い少しだけ酔っていたから、それは起こるべくして起こったのだと思う。

 そう、必然だった。


 廊下ですれ違うと、あなたはあたしを呼び止めた。何か会話が続くわけじゃなかったけど、あたしは気づいていた。照れくさそうにあたしを見つめるあなたの目に、気づいていた。


 そして自然と唇を合わせた。会話はいらなかった。


 他の人の目を盗んで、あたしはそのままあなたの部屋にいった。ホテルのドアを閉めると、あなたは待ちきれず口づけをした。あたしはドアに背を預け、あなたを受け入れた。


 服を脱ぎ肌を撫で、ベッドに転がってしまえば、あとは何も考えなくてよかった。ホテルの石けんのにおいがした。あんなに愛されたのは初めてだった。体の奥がうずき、夢中であなたを欲した。あなたもそうだった。朝になって、慌てて自分の部屋に戻った。


 

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