第5話

 研修から戻ったら、関係は終わるはずだった。翌週に会社で顔を合わせても、あたしは普段通りにしようとつとめた。


 でも、ふとスケジュール帳を眺めると、あの夜のことを思い出した。

 あの夜。あたしだけに注がれた特別な熱とうねりを思い出すと、いけないことだとわかっていても、幸せに満たされた。今だけだから、と言い聞かせて、あたしは忘れようとした。


 それなのに、あなたはあたしに、電話をかけてきた。受話器からこもった声が聞こえると心臓がはねた。あたしの下の名前を呼んで、「会いたい」と言った。


 あたしは気持ちを抑えることができなかった。

 その夜、あなたはあたしを再び抱いて、耳元で魔法の言葉を囁いた。それを信じることしか、今のあたしにはできなかった。それを信じることがあたしを苦しめることになると、知っていた。


 でも……。


 

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