第2話

 鶯谷の改札を出て、数十分たった。


 あたしの家からも、あなたの家からも距離があるから、落ち合う場所はいつしか此処になっていた。駅前の電柱の影に隠れるように立っていると、あなたが姿を見せる。コートのポケットに手をいれて早足であたしに駆け寄った。


 あたしを待たせたことに対して何も言わないまま、手を取ってまっすぐホテルへ向かった。早歩きだったから、ヒールの足が少し痛かったけど、いつもそうだった。


 何かから隠れるように、誰にも見つからないように。そうやって歩く姿は、サスペンス映画で監視カメラを避けて進む登場人物みたいだったけど、実際は入社一年目のひよっこと、二回り年の離れたあなただったから、様にはならなかった。

 ぼやけた色の信号が青から赤に切り替わらないうちに、横断歩道を渡った。


 

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