秘密結社顔パンツ~見せるか見せないか、それが問題だ~

猫野みずき

第1枚目 白昼の拉致

「こーんにちはー!!うちのサークル入りませんかあ~!?」

「いや、きみかわいいね!こっちのサークルにぜひ!!」

 私たち新一年生は、大学での入学式が終わった後、先輩たちのサークル勧誘の嵐に巻き込まれ、もみくちゃにされながら講堂の前を通っていた。

 いいなあ、こういうの。本当に私憧れのT大学の学生になれたんだ。

 大学デビュー!!ひゃっほう!!あそぶぞ~!

 ……と言いたいところだけど、私は下を向いて絶賛人避け中。ごわごわの真新しいスーツの上から感じるみんなの熱気に酔いそうになりながら、ようやく前へと足を運んでいた。

 そして感じるみんなの視線。噂まではされていないかもしれないけれど、私の顔に原因があるのは即刻気づいている。 

 私は、マスクをしていた。顔の半分以上が隠れる、大きなものをつけている。表情が見えないように、私の顔が誰にも見えないように。

 数年前の流行病でみんながつけていたマスクも、いまや下火。人々はマスクから解放され、のびのびとした日々を送るため、帽子すらかぶることを嫌がるようになっている。

 マスクは、暗い時代の遺物だった。

 でも、私はマスクを手放すことはしない。これからもずっとだ。

 表向きは、喉が弱いから。扁桃腺が腫れやすいからだ。でも、本当は違う。つけ慣れたマスクをはずすことは、裸体で歩くのと同じこと。つまりは、素顔を見せるのが恥ずかしく、羞恥のあまりマスクをパンツと同一視してしまっているのだ。

 誰かが言っていた。マスクは顔パンツだと。パンツは人前で脱げない。それと同じことだ。

(……うう、マスクしていても恥ずかしい。早く帰りたい)

 私が目をいっそう伏せたとき、周りがどよめいた。

「諸君!我らが秘密結社『顔パンツ』をよろしく!今なら入会祝いにお好きなパンツを一枚プレゼント!」

 熱くマイクパフォーマンスをするその先輩は、なんとブリーフをかぶっていた!

 か、顔パンツだ!こうして見ると変態だ!そして、秘密結社の存在を白昼堂々宣伝しちゃっていいの!?

 ツッコミどころが多すぎてついていけない。 

 ……でも。もしかして、お仲間?

 私は思わずブリーフの男性の顔を見つめていた。人の流れは私の位置でせき止められ、ぶつかってきた同級生が軽く舌打ちをして通り過ぎていく。

「おお!そこのマスク姫!我らに興味がおありかな?」

 視線に気づいた先輩が、ビシッと効果音がつきそうに機敏な動きで私を指さす。

「へいへいお仲間!ようこそお仲間!」

 私が返事をする前に、顔にパンツをかぶった集団が私を取り囲み、胴上げした。

「やめてくださあい!恥ずかしい!!」

 響き渡る私の絶叫は無視され、私は秘密結社「顔パンツ」に拉致された。

 みんなが眉をひそめて見ている中で、お日様の光の中で、堂々と……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秘密結社顔パンツ~見せるか見せないか、それが問題だ~ 猫野みずき @nekono-mizuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ