第四章 「俺」と「私」 一、自己

 まあ俺は現代の言文一致運動というのが必要だと思っていて、というのはねつまりこういうこと。今俺はこの小説めいたもの小説というよりもむしろまあある種モノロジーではあるかもしれないけれども、まあ詩のような形で先ほども書いたけどまあやはり言文一致運動の方でねやりたいと思ってそういうところで書いてるから、これ書いてるんじゃなくて実は音声入力でやってる。そこで俺と私のこの分離を語りたい。

 夏目漱石という人間ってね、夏目漱石っていうのは例えば『吾輩は猫である』の中で、そうだな、デカルトのコギトについて敏感に反応したんだけれども、これがそういうことに反応しちゃってることは重要な意味を持つと思ってて単なる余談めいた問題でなくて重要な意味をもって、それというのはつまり『三四郎』や『こころ』に明らかにある、田舎の静かなところの「俺」というものと、都会の、動的な都会におけるあるいは東京における「私」というものがね分離しているようなね、そういう所をね描いている。それが多分代表例は『こころ』だろうね。

 私と先生とかそういうものが出てくる。まず重要なことだと思ってて、人間の自由になるとはどういうことかっていうことを考えられると思うしはたまた彼がここで何を言ってたんだか、結構重要なことだと思うんだけどまあK先生は『こころ』嫌いだっていうね、好きじゃないんだよねって。でもそういう問題じゃないと思ってて俺は非常に重要な作品だと思う、近代的自我というものを文学あるいは小説というものの枠組みで考えるにあたって非常に重要なことだと思っててそれの一つの時代精神の発現がまさにあの『こころ』という作品に集約されていると思ってる。

 おそらく漱石はそれを自覚的にやっていた。これはね非常に面白いテーマだと思うしちょっと考えてみたいところ。だから『夢十夜』なんかねえシュルレアリスムの影響を受けたかのようなものよりもよほど意義あることだと思ってて、これはだから俺は考えたいね。

 まあところでまあ俺というのはうーんどうしようもなくこう喋っているとこういう風な話し方になってしまってつまり「俺」として話すわけだけれども、そこにおいてもはや「私」という反省意識はない。これを俺は「神が語らせてくださる」とか言うんだけど「詩人狂人説」とか言う詩人が狂人であるというパイドロスの議論がプラトン、あるいは、何か神託めいたものデルフォイのアポロン神のピュティアの神託あれというのもおそらくはそういう自己反省のないものだったんだろう、ただそのデルフォイの神殿に「汝自身を知れ」ということが、非常に、これ、興味深いことでね、興味深いっていうよりむしろ事例として面白いなあと思って、一つこれ比喩的な表現としてこれ使えそうだなと言うことで考えてるからやっぱりこういうふうな自己反省のないところでも極めて素敵な能力が発現するわけでね、おそらく預言者というのはそういう類の人間だったんだろ。トランス状態だねある種のね、だからこういうことを考えてその俺が俺として語る預言者として語る詩人として語るええあるいはまあイエスキリストとして語る、そういったところで非常に面白い。で「俺はキリストだ」っていうのもあながち間違いじゃなくて神が語らせてくださるということでね、ええそういうことで考えていくとやっぱり俺は俺しかありえないんだろうと思ってて俺が今何を言ってるのか自分でもさっぱりわからんけどもまあでも何か意味のあることを言ってるんだろうなと思ってる。


 だからそもそも俺というのは基本的な考え方としては何か言葉と文章の分離乖離というものが相当に本を読む読書ということのハードルを上げてしまっていてそれは非常に問題だと思っているからそこでね、解消したいと同時にええ俺自身がまあかなり対話的な人間であるというところからやはりソクラテスのような仕方でありながら同時にええ非常に高度なことを行ないたいというのがあって、うん。ソクラテスかつものを書くというようなことをやって行きたいと思っててね、そういうことをやるというのはなぜかって簡単な話 。

 俺がまずそもそもソクラテス的な生き方に向いていると自分で思っているのとまあかなりあの預言者めいた人間だからうん神話を解さないけれども預言者めいた人間であると自分では思っているからそういう能力が高いと思うんだよね。宗教家的詩人的能力が一致すると思っているからね、アナロジーだね要するに。

 そういうところから考えてさらに進んでいくと、でも同時にそこで満たされるべきものとして俺の中で要請されているものはつまりあくまでも後世に残すということ、自分で自分の手で残すこれがね同時に満たさなきゃならないんだってね、つまりものを書くソクラテスみたいなもので目指したいんだね。それで今はおあつらえ向きにこういう音声入力するものはあるわけでしょ、出来れば対話相手がいた方が良いんだけどまあそういうわけにもいかないからやむなくということやってるわけだけどまあ多分ソクラテスを書き残した著作の大半対話篇のプラトンにおいてもおそらくそういうところがあったんだろうええ。

 かつね、対話というものは必ず相手というものがいるわけでね相手のコンテクストを人間は瞬時に全体性として把握できると俺は思っているから、そういう意味合いにおいて対話とええモノロジーは違うということですかね、あーやっぱり理想としてはこうやって一人で語っているよりもよほど対話相手がいた方が良いんだけどなかなかそういうわけにもいかないから一応自分ひとりで独り言としてねねまぁ預言者めいたことをやってるわけだけどもまあこれはこれでアリなんじゃないかなと思ってる。まあおそらくイザヤとエレミヤとかいう人間もそういう人間だった、イザヤ書とか読んだことある人ならわかると思うけどもまあある意味ではかなりそういうふうなところがあった。ソクラテスは対話でやってる、イザヤはかなり預言者めいたというか預言者そのものだからまさにそういうことでね、やった人だから俺もそういうものを目指して自分であの第二イザヤとかねあるけど全部一人でやりたい。やっぱりそののちの人に編纂させるっていうことなくあくまでも自分で作りたいがあるからねやっぱり自らの作品ということでねやっていきたいという思いがあって今こうやってやっている訳だ。

 まあそういうわけで締めとして言うとすればまあこの試みという今後どうなってるかわからない、わからないなりに何かやっていく。以上だ。



 さて、このような愚にもつかない無反省的「モノ語り」の試みであるが、ある意味これをうまく形にした文体が新しい表現形態になればいいと思う。人は、演じていない時などあるのだろうか?制服効果というものがあるが、同時にパジャマ効果とも言えるのではないか?すなわち、「あなたの本当の服装などあるのか」。そこで、人が自分の顔を自分で相貌として感覚しているということを想定する。恐らくそれは事実なのだ。そうして考えてみる。旧石器時代の人だってきっと自己の認識する自己を演じていたはずなのだ。ということは、古代や無文字社会の「モノ語り」すなわち神話でさえも、実は反省的な作用くらいはあったのではないか?ここが私はわからない。

 しかし重要なのは、私の意識はいかにして生起したのかということであり、ありもしない他者の意識やクオリアなど恐ろしくどうでもいいのだが、しかしまた、それらはこの私の私という意識への問いを解く手がかりとして大いに役に立ちそうなのである。故に私は意識の歴史を描きたい。人類の精神史意識篇である。考古学者になろうかな、民俗学者になろうかな。ああ、面白そうだ。とっても大切なことのように思える。そして最後、我々はどこへ行くのか。



 じっと考えてみる。苦痛は誰でも嫌だ。嫌であるところの痛み苦しみを苦痛と総称しているのだから当然である。そこで、苦痛と、苦しみと痛みを分けて考えてみよう。苦しいことは苦痛であるとは限らない。痛みが苦痛であるとは限らない。苦しみと痛みのなかでその感覚を伴いつつもエクスタシーに入ることは十分に考えられるし、実際にあるだろうことだ。しかし、苦痛になってしまうともう絶対的嫌悪のニュアンスが随伴している。故に、ここにこそ活路が見出せる。苦痛が嫌悪とともにある痛み苦しみだとすれば、それは恐らく痛み苦しみに対してより複雑な機序をもつものなのか?しかし仮象ということはあり得ない。皆体感として苦痛を嫌と言うほど知っているはずだからだ。だから、苦痛はある。これは認めざるを得ない。しかし、それは痛み苦しみに対して二次的な現象かもしれない。もし、もし苦痛の中の嫌悪が痛み苦しみと本体的に分離しており、かつ抹消可能だとすれば、だ。そうすれば痛み苦しみを悲劇的陶酔へと変貌させる道が開ける。すなわち、忘我的境地である。胸を押さえながらも笑顔でgood ruckを示しながら死ねたら上出来じゃないか。そうなのだ、我々はあることないことを言葉に惑わされて考えすぎなのだ。或いは間抜けな想像力の登攀。だから、人間はただ自分の誠実さをもって自分が信じるものごとを手掛かりにひたすらひたむきに進めばいいのだ。それしかないのだ。そのさなか対話に衝突することもあるだろうが、その時は真摯に受け止めて自己形成を止めなければいい。それが辛うじて生きているお道化の姿であり、それはなに、他人ごとではない、あなたのことだ。

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