第9話辺境伯領におもむく。

私たちはリンドベルを離れることになった。

リンド子爵の四男であるフリッツがハルムート辺境伯爵の一人娘であるリオーナと結婚することになったからだ。

結婚の話は前々から進んでいたようで、それが王国政府についに認められたということだ。フリッツの近辺を護る私とアレンも当然ながら付き従うことになった。


ハルムート辺境伯の領都であるドラゴムはリンドベルから馬車で約一日の距離である。私たちは二台の馬車でドラゴムに向かう。

一台は私とアレンがフリッツを護るために乗る。もう一台はお付きのメイドたちが乗る。領土こそ小さいもののさかのぼれば王家につながるリンド子爵の息子の一団にしては小規模といえた。

アレンの話ではリンド子爵家は長年の浪費のせいでその財政は実はかなり厳しのだという。

この結婚でリンド子爵は結婚のための多額の準備金を受けとったのだという。

交易都市であるドラゴムを有するハルムートの財政はかなり豊かでこの結婚はリンド家にとってわたりに船だったようだ。

これらをすべてアレンは説明してくれた。

一日の旅程とはいえ、なれぬ馬車の旅でフリッツはかなり疲労していた。

この様子では一日以上かかりそうだ。

まあ急ぐ旅でもないのでそれでもかまないか。

予定よりも遅くにその宿場町についた。

さすがに子爵の子息に夜営させることはできないので、宿をとっていたのだ。もちろん宿泊費はハルムート辺境伯のもちだしである。


リンドベルとドラゴムのほぼ中間に位置するこの宿場町の規模はそれほど大きくない。小さな集落といったところか。

深夜になり皆が寝静まったころ、私は食欲を満たすために宿を抜け出した。

種族が鬼人オーガとなったからだろうか無限かと思えた飢餓からすこしだけだが、解放されたような気がする。人間の食事でもどうにか飢えをごまかせるようになった。それでも何日かに一人の割合で人間を食べなければどうにも調子がおかしくなる。

フリッツの結婚の用意やなりやらで私はしばらく人を食していない。ドラゴムに到着すれば結婚式が控えているので一人で食事に出かける時間がとれるかわからない。


別の宿屋にとある商隊が宿泊しているという。その商隊も交易都市であるドラゴムを目指しているようだ。

私がその商隊が泊まるという宿屋に近づくと一人の女性が出てきた。

「ほら今ならみんな寝てるからいい機会だよ」

その女は数人の男たちに言う。

人相が悪くていかにも野盗とか盗賊といった風貌だ。

これは私の考えだが、この女は盗賊を自分が所属する商隊を襲わせるために手引きしているのだ。おそらく女は金に目がくらんだか何かだろう。

ちょうどいい、今晩の食事はこいつらにしよう。


私は特技スキルである陰身を使う。この姿は他人に自分を認知させない能力だ。さらに俊足を使いそっとその盗賊たちに近寄る。

私が背後にいるのに彼らは気づかない。

盗賊は三人の男と手引きした女の合計四人だ。

音もなく近づき、私は一人男の首を背後からへし折る。まずは一人。

まばたき一回のあと、私は短刀術を使いもう一人の首の血管を切る。うまそうな血が吹き出す。

驚愕している男の心臓に短刀をひと突き。これで三人目は絶命する。

瞬時に三人もの男を殺害され、女は腰を抜かしている。

私はその女に馬乗りになり、口をふさぐ。女は私の手の中でうーうーと唸っている。私はその女の柔らかそうな首に噛みつく。温かくて甘い血が口に広がる。やはり人間の女の血はうまい。

「やっとあいつらから逃げられるはずだったのに」

そう言い残し、その女は私の腕の中で絶命した。その言葉の意味はよくわからなかった。この女は自分が仕える商隊から抜け出すためにこの男たちを呼び寄せたということだろうか。まあいい、私には関係ないことだ。

私は久しぶりに味わう女の肉を堪能した。さらに三人の男たちも食いつくした。食べ物は無駄にしてはいけない。

体に力がみなぎる気がする。


鬼人レベルが5になりました。特技スキル誘惑、魅了、闘争心を獲得しました。

どうやらまた特技スキルを獲得したようだ。フランケンシュタイン博士が親切に説明してくれる。特技スキルもだいぶたまってきたな。

特技スキルはステータスをオープンすることによって確認することができます。

ほう、そんなこともできるのか。親切設計だな。

それではそのステータスとやらをみてみようか。


私は瞳に意識を集中させる。するとどうだろうか視界の左下ににやら文字が浮かぶ。

種族鬼人オーガレベル5。

特技スキル悪食、動物の声、身体強化、言語能力、短刀術、剣術、知識吸収、防御、魔力レベル3、鑑定、商売の知識、交渉術レベル3、魔術、鑑定眼、剛力、威嚇、誘惑、魅了、闘争心。

けっこう特技スキルがたまってきたな。それに似たようなスキルがある。


特技スキルは融合することができます。

それはフランケンシュタインの声。

私はさっそく鑑定と鑑定眼を融合してみる。融合結果は「審美眼」となった。どうやらあらゆるものの状態を把握できるようだ。

さらに短刀術と剣術を融合してみる。

すると「二刀流」という特技スキルを獲得した。うん、これはおもしろい。これからもスキルを集めていこう。


満腹になった私は用意された宿屋にもどり、ぐっすりと眠りについた。

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