第8話ミラは語る。
口につく血をぬぐい、私はミラの豊満な体を見る。いい肉つきで実にうまそうだ。
ミラは申し訳低度の小さい布でできた下着をつけている。その下着からはミラの柔らかそうな肉がはみ出している。これでは裸とかわらないのではないかと思う。
ミラの下腹部に特徴的な
その刺青はどこか子宮を連想させるものだった。
「ああこれかい。これは淫紋だよ。男を快楽のとりこにする魔法だよ。そうだよ、私は男の精を食らう
ミラは腰に手をあてて言う。
それは聞きなれぬ言葉だったがどうやらミラも私と同じように人ならざるものだったようだ。
「しかし盛大に食いちらかしたねえ」
床に残るもとベルジの残骸を見てミラは言う。そこには髪のついた頭皮とわずかな肉片と血だけが残っていた。
「こいつからはもっと精を絞り尽くしてやろうと思っていたのに」
あからさまに残念そうな顔でミラは呟く。やれやれとため息をつく。
ミラの話では高利貸しのベルジを性の虜にして逆に支配してやろうと考えていたということだ。
「そうか、すまないことをしたな」
私は言った。
ミラの計画を知っていたら食わなかったのに。
「うんうん、いいよ別に……」
派手な顔を左右にふり、ミラは言った。
「あんたも自分の欲求をおさえられなかったのだろう。魔族なんてのはそんなものさ」
ふふっとミラは妖しい笑みを浮かべる。
「それよりさ、これもなにかの縁だよね。マリアンヌさん、手をくまないかい」
ミラは言い、右手を差し出す。
「いいだろう」
私は答える。
ミラがいればいろいろな人間を誘い、補食することができるだろう。
彼女の話ではシーナも
男の子をクリス、女の子をエリスといった。
おそらくなにかの気まぐれでそうしているのだろう。子供がいたほうが人間社会にとけこみやすい。
私たちはベルジの自室に行き、借用書をすべて焼いた。チリチリと燃える火に私は吐き気に似た嫌悪感を覚えた。
「やっぱりアンデッドは火が苦手なんだね」
ミラは言う。
すでに彼女はこの屋敷に来た時のドレスを着用している。それでも胸元はたっぷりと脂肪がはみ出している。
「なんだい、じろじろ見てさ。あんたも私に負けないぐらいのものもってるじゃない」
ミラは言い、私の胸を揉む。
それに何の感触も覚えない。
アンデッドには食欲はあるが性欲はないということか。
「もったいないね。美人でこんなにいい体をしているのに」
ミラはひとしきり私の胸と尻を揉んだりさわったりした。しかし、私にはなんな感触もない。
借用書が燃えている暖炉にベルジの残りカスをいれ、それも燃やす。肉の焼けるいいにおいが漂う。
ミラは濃い顔をしかめっ面にしていた。
「さあ金庫から金をとったらずらかるよ」
ミラは言い、手際よく金庫をあける。暗証番号はすでにベッドの上で聞き出していたという。
金貨はざっくりと数えて二百枚近くあった。私はそれを革袋にいれて肩にかつぐ。さすがにずしりと重い。
私はもう一つの手でミラを抱きかかえると
ある程度離れたところでミラをおろす。
「はーすごい速さだね。息するひまもなかったよ」
ふーと息を吐き、ミラは大きな胸を撫で下ろす。
「ベルジがあんなことになったから私らは東の辺境伯のところにいくよ。あんたもよかったら来るかい?」
ミラは私を誘う。
私はその誘いをいったん断った。今はフリッツの近侍となったばかりだ。いきなりいなくなったらアレンが寂しがるだろう。私はあの正義感の塊のような男をけっこう気にいっているのだ。
「そうかい、じゃあまたね」
ウインクしてミラは金貨の革袋を肩にかついでよたよたと帰っていった。
それから一月後、私はフリッツの付き添いで辺境伯の領都におもむくことになった。辺境伯の一人娘とフリッツが結婚することになったのだ。
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