第7話いらないものを食らう。
どれぐらい眠っていたのだろうか?
ミラに尋ねてみる。
「前に鐘が鳴ってからまだ鳴っていないので、二時間は寝てないと思うわ」
と彼女は言った。
領都リンドベルのほぼ中央にある教会から二時間に一度鐘がなる。時計は貴重品なので重要施設に保管されているか貴族がたしなみにもっているかである。
そうこうしているうちにゴーンと街中に鐘の音が響く。
この鐘の音は午後10時の合図だ。
その直ぐあとにドンドンと激しく扉を叩く音がする。
その激しいノックの音を聞き、ミラはあからさまにいやな顔をする。
「呼んでもいないのにいやなのがきたよ」
苦いものを食べてしまったような顔だ。
しぶしぶ扉を開けると片目の男が入ってきた。明らかに人相の悪い、細い体格の男だ。
「ベルジの旦那かい。今日はまたなんのようだい」
ミラが言う。
「ミラ、返済期限はとうにきれている。返せない場合はわかっているな」
べろりとミラの豊満な体を見て、ベルジは唇をなめる。
「はいはい、わかったよ。相手をすればいいんだろう」
ミラはため息をつく。
「ものわかりが良いのはなりよりだ」
ベルジは下品な笑みを浮かべる。
「マリアンヌさん、悪いけど急用ができちまった。この続きは今度ね」
そう言い残し、ミラは片目の男と外に出ていった。
「またミラ姐さんにまかせてしまったわ」
シーナが悲しげに言う。
シーナの話ではベルジという男は高利貸しをしているという。数ヶ月前にミラが面倒をみている二人の子供たちが病気になった。その薬を買うために仕方なくベルジから金を借りた。
高利貸しベルジが提示した条件は金を返せないときは無償で夜の相手をするというものであった。またベルジが要求する金利はかなり高く、借金はふくらむ一方でミラはほぼ愛人のようなことになってしまったという。
「ミラ姐さん、早く帰ってきてほしいな」
男の子のほうが言った。
シーナは二人の子供を寝かしつける。
私はシーナに別れを言い、ミラの部屋を出た。
そっとベルジとミラのあとをつける。
卑怯な高利貸しなどこの世からいなくなっても誰も心配しないだろう。そう私は考える。今日の夕食はやつにきまりだ。
ベルジの屋敷は直ぐ近くあった。
なかなかに豪華な屋敷だ。きっと貧しい人たちから金をまきあげて築いたのだろう。二人は屋敷の中に消える。
私は
屋敷のなかは全体的に薄暗い。
さて、どうやって高利貸しベルジを探そうかと思案していたら、女のあえぎ声が聞こえてくる。恥ずかしげもなく大声でその女性は悲鳴に近いあえぎ声をあげていた。
その声は間違いなくミラのものだった。
鍵穴から中をのぞくと二人は重なりあい、激しく交わっていた。
やがてミラの声が聞こえなくなる。
ベッドから男がおり、扉のほうに歩いてくる。
私はそっと扉から離れて壁に体をくっつける。ここなら死角になって扉をあけても気づかれないだろう。
ベルジが下半身に布を巻きつけた姿であらわれる。
私は手のひらに意識を集中させる。
風が集まり刃となる。
瞬時にベルジの右腕が肩から切り落とされる。
魔法の威力は素晴らしい。
ベルジが悲鳴をあげる前に
落ちている右腕を拾い、別の部屋に行く。そこからは人の気配はなかったが案の定誰もいない。
私はゆっくりと食事を楽しむ。
頭の中で声がする。
もうこの声が誰だかはっきりしている。それはフランケンシュタイン博士の声だ。
「マリアンヌさん何をしているの……」
私は口にこびりつく赤い血をぬぐう。
振り向くと口を手でふさいでいるミラが立っていた。
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