第6話フランケンシュタイン博士と出会う。

気がつくと私は草原にいた。

暖かい風が心地よい。

私はその草原をあてもなく歩く。

そこで異変に気づいた。

歩幅がかなり小さいのだ。

手足を見ると細く小さい。子供のそれである。私はどうやら幼児になったようだ。

小さな小屋を見つけた私はそこに入る。

中にはテーブルと椅子が二つ。

その一つに人が腰かけている。

マリアンヌに負けぬほどの豊かな体をした女性だ。その胸がテーブルにのっている。白い髪は長く、首の後ろ辺りで無造作に結ばれている。

緑色の瞳で私を見ると優しく微笑む。

「やあメアリー。どうやら無事のようだね」

少しかすれた声だった。

メアリーという名を聞くと何故だが懐かしい気持ちになる。

「あなたは?」

私は聞く。

「私はフランケンシュタイン博士さ。君の両親に頼まれて、手術を行ったものだよ」

フランケンシュタイン博士は言った。


私はフランケンシュタイン博士のすすめでもう一つの椅子に座る。彼女は私に紅茶を入れてくれた。

「酒はアンデッドにとっては禁忌だよ。消毒だからね。でもまあそれで私と会えたのだから今回はよしとしよう」

フランケンシュタイン博士は優雅に紅茶をすする。

「ここはどこですか?」

私は聞く。

「ここは現実と幻の狭間の世界だよ」

フランケンシュタイン博士は言う。

そして指をパチンと鳴らす。


そうすると私にメアリーだったころの記憶がよみがえった。

私はとある寒村で生まれた。貧しい農家の一人娘だった。

その生まれ故郷の村に飢饉が襲い、村人は全滅した。

その土地を治める貴族にとって村一つなくなったところでどうということはなかった。その貴族にとって農民の死よりも社交界のパーティーやお茶会のほうが重要だったからだ。

両親は飢えてしかも病気になった私を抱えて村で唯一の教会に向かった。

そこで両親は神に祈った。

一人娘だけでも助けて下さいと。

その言葉は神ではなく、悪魔に届いた。

それがフランケンシュタイン博士だったのだ。

彼女は私をアンデッドにする手術をほどこし、特技スキル悪食を与えた。

「その特技があれば馬鹿な権力者どもを葬ることができる。私にそれを見せてくれないか?」

フランケンシュタイン博士は言い、私の頬を撫でる。冷たい氷のような手だった。

「私はおごりたがぶる者が自らの行為に後悔し、涙を流して命乞いするあわれな姿を見るのが好きなのだ。それを私に見せてくれないか」

フランケンシュタインは私の目を見て言う。

「そうね、今のところ人間を食べることしか目標がないのだから、それもいいかもね。両親はかわいそうだからやっぱり仇ぐらいはうってあげるわ」

私は答える。

その答えを聞き、にんまりと邪悪な笑みをフランケンシュタイン博士は浮かべた。

「ではメアリー、いやマリアンヌ。君の物語じんせいをたのしませておくれ」

その声のあと、私は目を覚ました。


濃い顔のミラが私の顔をのぞきこんでいる。

「ごめんなさいね、まさかこんなに酒によわいなんて」

ミラが謝る。

「気にしないで……」

私はミラに答えて、その厚化粧の頬をなでた。本当に美味そうな女だな。

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