第5話公子の近侍となる。
リンド子爵の居城に戻った私とアレンは謁見の間にきていた。
居城といっても屋敷に近い建築物であった。
私とアレンはドレン護衛騎士団長の背後に控えている。上座にリンド子爵が豪華な椅子に腰かけている。
「此度の活躍みごとであった」
リンド子爵は直接我々をねぎらう。
だがどうやらその顔はめんどうなのではやく終わらせたいと思っているように見えた。
私たちはあげなくてもよい手柄をあげてしまったのだ。
私も功績などあげるつもりはなかった。囚われた人々を食ってやろうと思っていただけだった。
アレンなどは直接褒められて、かなりうれしそうだ。
私はそんなものよりも空腹を満たせるものが欲しい。
「そなたらを私の息子であるフリッツの近侍に任ずる。こらからも励むように」
そう言うとリンド子爵は数人の美しいメイドとともに奥に消えた。
私とアレンはドレン護衛騎士団長に連れられて、フリッツの自室に向かう。
私たちはこの日から彼の護衛をまかされたことを告げる。
「そうか、今度は君たちが僕の護衛をしてくれるのか。よろしく頼むよ」
フリッツは言う。亜麻色の髪をした女性のように優しげな容貌をしている。彼は右足を引きずっている。どうやら片足が悪いようだ。右手に杖を持っていた。
私たちは挨拶をすませると官舎に戻った。
フリッツはリンド子爵の四男で生まれつき右足が悪いという。どうやら私たちは、命令もされていないのに功績をあげたために厄介もののお守りをおしつけられたようだ。
ただアレンは公子の護衛をまかされてかなり喜んでいた。どうやら、アレンという男はそのようなわかりやすい性格のようだ。
公子の近侍なら名誉なことではあるが、四男ともなるとどこまでその扱いは微妙なものである。まあ私には関係ないことだが。
私は人間さえ食べられればそれでいい。この飢えと渇きさえ満たされればいいのだ。
私は訓練場に行く。
手に入れた魔法を試すためだ。運良くほかの護衛騎士は巡回に出掛けていていない。
魔法の使い方はあの魔女から知識吸収している。
まず手のひらに意識を集中する。
そうするとふわりと風が集まる。瞬時に風が球状の形をとる。
それを鉄鎧めがけて投げるとガラリと崩れる。ふむ、なかなかの威力だ。
魔法は風と火がつかえるようだが、火炎魔法は使う気にはならなかった。
火はゾンビの天敵だからだろうか。
風魔法は先ほど使った
風球はその衝撃で相手を吹き飛ばし、風刃はかまいたちの要領で相手を切り裂く。
私の感覚では使用回数の合計五回ほどのようだ。今のところ使い道はわからないが、もしかするとこれから頼る場面があるかもしれない。
私は腹がすいたのでまたあの裏通りに出かける。さて、今日はどいつを食ってやろうか。
私があれこれ物色していると派手な化粧をした女が声をかけてきた。
「あんたここらじゃ見ない顔だね」
そのふっくらした体の女は言った。胸がほとんどあふれている衣装を着ていて、真っ赤な唇をしている。こいつはうまそうだ。
口の中によだれがにじむのを覚える。
「ミラの姐さん、この人は護衛騎士様だよ」
もう一人の女がその肉がむっちりつまった女をそう呼ぶ。
ミラと呼ばれた女はみがまえる。
「騎士様がこんなところでなんのようなんだい」
最大の警戒心でミラは私を見る。
「ミラ姐さん、この人はヤクドのやつを追い出してくれたんですよ」
小柄な女は言う。小柄だが胸も尻も肉つきがいい。こいつもうまそうだ。
「なんだって、あの変態を追い出してくれたのかい。あいつには手を焼いていたんだよ。シーナ今日は店じまいだ、あんた一杯おごらせてもらうよ」
強引にミラは私の手を引き、彼女たちの住む家に連れていく。
そこは狭いがあの安宿と比べるとはるかに清潔だった。
小さな男の子と女の子が私の手をそれぞれ握る。
「ミラさん、お客様なの」
小さな女の子が言う。
「お客様やった!!」
男の子が元気良く私に抱きつく。
今すぐこの男の子にむしゃぶりつきたくなる。
「さあさあマリアンヌさん、とっておきのワインを出すからゆっくりしていってね」
そう言うとミラはグラスに入れたワインを手渡す。
まるで血のようで美味そうだ。
私はそれを一気にあおる。
食道を赤いワインが流れたあと、私は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます