第4話魔法を覚える。
昨晩食らった男は奴隷商人のヤクドといった。こいつが持っていた所持金は金貨二十枚。護衛騎士の一月の給与が金貨二枚なので、十ヶ月分の所得をえたことになる。
ヤクドは本拠地を王都においている。辺境で人をさらい、王都で売るのが彼のやり口だ。
このリンドベルにも支店のようなものがあり、とある建物に今回捕まえた幾人もの人間が囚われているという。
これは好都合だ。
そこに行けば人間を捕まえることなく、食べることができる。
朝になり、私は領都の外れにあるヤクドのアジトに向かう。
そこは表向きは倉庫街として機能していた。
守衛の人間がいる。目つきの悪い男が二人。
いやらしい目で男たちは私の体を見る。
「ヤクド様の使いできた。売る予定のものをみせてもらいたい」
私はヤクドの知識にあった合言葉を言い、さらに金貨を握らせる。
これは特技交渉術からくるものだ。
にやりと笑い、守衛の男たちは扉をあける。
奥は薄暗い。
ところどころに壁に松明が置かれている。
さらに地下室に向かう。
そこは地下牢がいくつもある。
私は壁の松明を手にとり、中の人物を物色していると何者かの声がする。
「誰かいるのか?」
弱々しい声がする。
私は声がする方に松明の明かりをむける。
牢屋の中にはボロ布に寝かされた一人の女がいた。どうやら右手と左足が欠損しているようだ。しかもろくに治療をされていないようで傷口が腐りかけている。
たぶんだけどそう長くはないようだ。
その人物と視線が交差する。
「ふふっ死ぬ間際にグールに会うか……」
その女は今にも消え入りそうな声でいった。
女は一目で私の正体を見破った。
「グールよ、私の頼みを聞いてくれるか」
女は勝手に話し出す。
興味を覚えた私は牢屋の南京錠を引きちぎり、中に入る。
「私の能力をおまえにやるから、仇をとってくれ。ヤクドなどはただの使い走りだ。財務大臣レイラムが背後にいる……」
そう言うと彼女はゲホッと血を吐いた。
その血を見て、食欲を刺激された私はその女を食らう。血は少なく、食べられる肉も少なかったがそれでも女だ。それなりにうまかった。
頭の中で女の声が響きわたる。
この欠損した体の女は魔法使いだったのだ。私はどうやらこの魔女から魔法を譲りうけたようだ。
さて次はどの人間を食べようかと算段していたら、聞きなれた声がする。
「マリアンヌこんなところにいたのか?」
それはアレンの声だった。
「ああ、アレンか。とある筋からここにさらわれた人間がいると聞いてきたのだ」
私は口からでまかせを言う。それも交渉術のたまものだ。
「そうか、僕も近隣住民からの要請で人買いの集団を見張っていたのだ」
アレンは言う。
王国では人身売買自体は違法ではない。だがヤクドのように有無をいわさず誘拐し、売買することは違法とされている。ではあるが、あまり守られていないこともたしかである。
リンド子爵も民衆が奴隷商人に売り買いされたところで、知ったことではないというところのようだ。
貴族にとって民衆は自分たちに奉仕させるものであって、手をさしのべて救う存在ではない。
正義感というものがあるアレンはどうやら違うようだ。彼はとある貴族の子息であった。だが、妾の子ということもあり家を飛び出してこのような辺境で護衛騎士をしているのである。護衛騎士となったアレンは虐げられている民衆を見て怒りを覚えたと前に言っていた。それはマリアンヌの記憶ではあるが。
私たちはほかの囚われの人々を解放した。まったくもったいない話だ。ついでにこの倉庫にいたヤクド配下の人さらいの一団も壊滅させた。弱いものしか相手にしたことないやつらなど私たちの敵ではなかった。
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