第3話ゾンビガール領都に入る。
女騎士マリアンヌとなった私は領都であるリンドベルに向かう。
そこは女騎士マリアンヌが仕えていたリンド子爵の居城と規模は小さいが城下町もある。そこには約五千人ほどの住民が住んでいるという。そうマリアンヌの知識にあった。
距離的には徒歩で一日といったところか。疲れ知らずのゾンビなので思いのほか早くつくことができた。
ドミンゴ村を出て、翌日の昼過ぎには領都リンドベルに到着した。城門は昼間の間は開け放たれている。一応門番が不審者がいないか門の両脇で警戒している。
マリアンヌの姿となった私は剣を装備しているが、簡単にその門をくぐることができた。
さて、どいつから食ってやろうかと物色していると何者かが声をかけてくる。
「マリアンヌか、マリアンヌなのか?」
それは男の声だった。
振り返り、その人物の顔を見る。
マリアンヌの記憶にある人物であった。
彼女と同じリンド子爵の護衛騎士団に所属するアレンであった。
金色の髪をした端正な顔立ちの騎士で、弓術を得意としている。
「ドミンゴ村の偵察にむかったと聞いていたがどうだった?」
アレンはきく。
「だめだった。村人全員はアンデッドによって殺されていた……」
私は言う。
嘘はついていない。
マリアンヌ本人も死んだといっていないだけだ。
「そうか……それは残念だったな」
アレンは悲しげに言う。
「ところでその髪はどうしたんだ。銀色だったのに桃色になっているぞ」
とアレンはまじまじと私の頭を見て、言った。
「おそらくだが、アンデッドの呪いだと思う。ドミンゴ村のアンデッドは私が倒したのだが、戦闘の途中魔法攻撃を受けたのだ。持っていたポーションでしのげたが何故だか髪の色だけ変わってしまった」
私は今度は口からでまかせを言う。
「そうかそれはたいへんだったな。そのなんだ……その髪も似合っているぞ」
何故だか顔を赤くしてアレンは言う。
こいつは熱でもあるのだろうか。
男は固くて不味いので、あまり食べたくはない。これだけ人がいるのだ。美味い女や子供を食べたいものだ。
だからアレンは後回しにする。
護衛騎士団長のドルフにはアレンから報告をしてくれるというので、私は官舎に向かう。そこはマリアンヌの自宅であった。
そこは質素な部屋であった。家財道具は最低限で着替えもわずかしかない。その数着の衣服も質素であった。
マリアンヌは下級貴族の出身で両親はすでに病死していて、他に兄弟はいないようだ。
剣の腕前をかわれて護衛騎士団に入ることになったようだ。
食べれそうになるものないので私は夜になるのを待った。
夜の闇にまぎれて人を狩ろうと思う。
大通りから外れて、私好みの暗くてじめじめとした裏通り入る。
そこにも人はいる。
派手な衣装に派手な化粧をした女たちとそれを値踏みしている男たち。
私がどの人間を食らおうかと物色していると太った男が声をかけてきた。
「おまえ、変わった髪の色をしているがいい体をしているな」
下品な笑みを浮かべながら、その男は舌なめずりして私の体を見る。
「私はそのようなことをしない」
私は言う。
私は食事をしたいだけだ。
「そんなことを言うなよ。金なら払ってやるからな」
さらに顔を下品に浮かべて、男は指に挟んだ金貨をみせる。
マリアンヌの記憶ではそれでいろいろなものと交換できるようなのだ。
もちろんマリアンヌの部屋には金貨なんて代物はなかった。
金貨は人間社会にまぎれて暮らすには便利なものだ。無くてもいいがあればこれからここで狩りをするのに何かと使えそうだ。
いいことを思いついたので私は男についていくことにした。
男と共に安宿に入る。
そこはマリアンヌの部屋のほうがはるかに豪華と思えるほどの薄汚いところだった。
申し訳程度のベッドとろうそくの台がおかれていた。
ろうそくの淡い光が男の脂ぎった顔を照らしている。
男は両手を広げて、私の体を抱きしめる。ベタベタとした手で不快な気持ちにさせる。
私は口をその男の首にあてる。
太ももになにやら固い感触がある。
私は口を開けてその男の首に噛みつく。
悲鳴をあげようとしたので首をひねり、絶命させた。
名も知らぬ女の声も聞きなれてきたものだ。
その日、私はこの下品な男を食らった。筋肉は固くて不味かったが脂肪のたっぷりついた内臓はうまかった。そして私は金貨二十枚を手にいれた。
その金貨はバルゼ王国金貨と呼ばれるもので二枚で平均的な一般家族が一月は暮らせるぐらいの価値があるという。
私は金貨の入った袋をコートのポケットに入れて官舎に戻った。
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