第2話女騎士になる。
長剣の切っ先は月の光を受けて、鈍く輝く。
痛いほどの殺気をその女騎士は私にむける。
それにしてもこの女騎士は美しい。
月明かりに照らされて銀色の髪も輝いている。青い瞳は力強く、生気にみちあふれている。
それにひきかえ、私ときたら傷だらけの体で所々虫がはっている。
私は目の前のこの美しい女騎士になりたいと思った。
初めて人間を美しいと思い、代わりたいと心底思った。
どうしたら入れ代われるのか?
とりあえず、この女騎士を動かせなくしなければ。
問答無用に女騎士は長剣を上段にかまえて、振り下ろす。
こいつは今までの村人とは違う。
震えることなく、一足飛びに距離をつめる。
ガツンという鈍い音がした。
私の左腕が切り落とされた。
地面を転がる左腕を私はぼんやりと見つめる。
体を切り落とされたのは初めてだ。
私は右手の錆びたナイフを握りしめる。
女騎士マリアンヌは後ろに飛び、距離をとる。
次は私の番だ。
私は全速力で距離をつめる。
右手のナイフを腰のところまでひき、一気に打ち出す。若干ひねるのがこつだ。すでに
女騎士マリアンヌは私の攻撃を紙一重でかわす。銀色の髪がはらりと散る。
ひきつった表情で女騎士マリアンヌはさらに距離をとるべく後退する。
私はさらに距離をつめ、何度も何度も短刀術で攻撃する。
女騎士マリアンヌは見事な腕前で私の攻撃をかわす。
私も鋭い斬擊をどうにかして受け流す。
攻撃と防御を何度か繰り返すうちに変化が訪れる。
女騎士マリアンヌが肩で息をし、剣をかまえるのもつらそうにしている。
「こいつ、強い。アンデッドが複数スキルを使うなんて……」
だらだらと美しい顔に汗をながす。
人間は疲れるがゾンビは疲れない。
それがチャンスであった。
あきらかに疲労のため、マリアンヌの動きが鈍っている。
私はそれを見逃さない。
地面に転がる自身の左手を蹴りあげる。
その左手はマリアンヌめがけて飛来する。
虚を疲れた女騎士はその左手を長剣で払いのける。
その動きには先ほどまでの鋭さはない。
振り下ろされた長剣がもとの位置に戻る前に私は距離をつめる。
私のナイフは鎧の隙間をつき、腹部に突き刺さる。
引き抜くとどくどくと赤い血が流れ出す。
なんて美味そうな血だ。
ナイフにつく血をなめるとそのまったりとした血の味に私は感動すら覚えた。
なんて極上の血なんだ。
地面にたれながすのがもったいない。
女騎士マリアンヌはふらふらしている。
もちろん私はそれを見逃さない。
再び距離をつめて白い首筋にナイフを切りつける。
さっと傷が走り、血がふきだす。
私はがぶりとその傷口にかみつく。
口の中に温かい血がながれこむ。私はそれをごくごくと飲む。
マリアンヌはじたばたするが、そんなもので私の腕をほどくことはできない。
やがて女騎士マリアンヌは動かなくなった。
ゾンビレベルが10になりました。
女の声が頭の中に響く。
よくわからないが私はイエスを選んだ。
種族
私はマリアンヌの血を飲み、その柔らかくて、舌がとろけるような美味さの肉を味わいつくす。肉も骨も血もすべて味わいつくした。
気がついたら私の体は変化していた。
あの美しいマリアンヌの姿になっていた。
私は無人となっている村長の家に向かう。
ここには鏡なるものがあり、自分の姿を確認できる。
そこに写し出されたのはかの女騎士マリアンヌのものだった。
ただ髪の色だけはどうしたものか銀ではなく桃色であった。
髪は長くて邪魔になりそうなので村長の家にあったリボンというもので二つくくりにする。たしか村長の娘がそのような髪型をしていた。
その豊かな体は我が肉体ながらとてつもなくうまそうだ。おそらくだが、これが
私は村長の家にあった娘の服を着た。マリアンヌの体には少々きついが、仕方ない。
どうやらこの服がドミンゴ村で一番高価なようだ。
私はマリアンヌが使っていた長剣を拾い、それを腰にぶら下げる。剣をぶら下げるためのベルトも村長の家から拝借した。
どうせこの村には人間はもうにいないのだ。私に使われるほうがアイテムたちも幸せだろう。
私はマリアンヌが仕えていたリンド子爵の領都であるリンドベルに向かうことにした。
マリアンヌの生前の記憶が私にはある。
特技知識吸収の効果だろう。
リンドベルにはドミンゴ村とは比べものにならないほどの人間がいるようだ。
考えただけでも私の腹は鳴り出した。
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