なにもできなかった私が武器を持って戦う話
ぬやみうたくひ
第1話 キラキラ
「ハートが足りない」「愛が足りない」
そんな言葉が飛び交う世の中。
心の疲れた人にハートを渡すことでみんな元気になり犯罪が減るというシステムだったが、お金がないなどの理由でハートをもらえない人が増え、犯罪も増えた。
そして、そんな愛情の足りない悪い人にハートを届ける活動をする団体ができた。
『愛情配布団体』という名で人を傷つける人にハートを与え、自分の身を傷つけながらも今日もたくさんの人を救っている。
「おい、行くぞ。」
車につまれた大きなスコップ。
父に促され、私は車に乗った。
その後顔を一発殴られる。いつものことだ。理由がなくても殴られる。
お母さんも車に乗っている。死んだお母さんが。父に殺されたお母さんが。車につまれている。
父からいつも私を守ってくれていたお母さん。
これから山に埋めに行く。
車で走って走って走って走って走って。
着いてしまった。
「ここに埋めるぞ。」
お母さん。つらい。苦しい。どうしよう。埋めるのは絶対に嫌だ。でも、逆らったら私も殺されるかもしれない。
震えながらスコップを持つ。その様子を見ていた父からもう一発殴られた。痛い。
車から降りたそのとき、クラクションが聞こえた。うちの車じゃない。少し離れたところから。音はどんどん近づいてくる。クラクションを鳴らしながら走らせていたその車は、私達の車のうしろで停まった。
その車から人が降りてくる。私は目を疑った。
なんてキラキラしているんだろう。
蛍光色の服。ひらひらのドレス。青とグレーが混ざったような髪色。
その3人組のうちのひとり、蛍光色の服で金髪の女性は、私達を見るとこう言った。
「なにしてんの~?」
明るい声。でもなんだか少し怒りを感じる。
父はナイフを取り出した。
「てめぇら誰だ。」
ひっ。怖い。どうしよう。この女性達も殺されてしまったら。
「へー!ナイフ持ってるんだ!」
蛍光色の女性は、怖がることなく父に近づいてくる。
父は思いっきりその女性にふりかかった。
すると、その女性は父の腕を掴む。ゴキッと音がした。父の腕の骨が折れる音。
「う"ああああああ!」
痛がっている父を見て表情を変えず、その女性は注射器を取り出した。中にはピンクの液体が入っている。そして父の首筋にその液体を入れた。
すると父は急に痛がるのをやめて、動きが止まった。
父の目から涙がぽたぽたこぼれてくる。
「うぅ、ごめんなさい、ごめんなさい。」
父が謝り始めた。お母さんの遺体に向かって。
「これで解決!お嬢ちゃんは大丈夫?」
私が頷くとその女性は安心したような顔をした。
それにしても、この女性達は誰なんだろう。
なんで私を助けてくれたんだろう。
なんで父は急に泣き出したんだろう。
あのピンクの液体...なんか聞いたことあるような...。
あっ!!!
「あの!愛情配布団体さんですか!?」
私が聞くとその女性はニコッと笑った。
「そう。愛情配布団体。私達は悪いことをする人にハートを届ける仕事をしているの。」
ハート??
「ハートって...?」
「ハートは愛情の入った薬。液体。この液体を浴びせられると、悪い感情が愛情へと変わるの。」
すごい!だから父は急に泣き出したんだ!
「えっと、お嬢ちゃんの名前は?」
「草野香です。くさのこう。」
「そっか。私はジョセフィン・ムーア。ねぇ香ちゃん。私達と一緒にこの仕事しない?」
え?私が愛情配布団体に?
「無理ですよ!絶対!私力とか強くないし、弱いし。」
するとムーアさんは笑った。
「香ちゃん、虐待受けてたんでしょ?そんな子が弱いわけないよ。ずっと耐えてたんでしょ。」
それに、とムーアさんは言葉を続けた。
「香ちゃんのお父さんはこれから刑務所に行っちゃうし、香ちゃんひとりじゃん?愛情配布団体なら寮もあるし、それに香ちゃん、心が強そうだから。」
私の心が強い?確かに私はずっと耐えていた。それなら...
「私、愛情配布団体で働きます。体も鍛えます。学校もやめます。私のような、ずっと怖さから耐えている人を解放してあげたい。」
ムーアさんはまたニコッと笑った。
「なら話は早い!とりあえずうちの事務所行こ!理事長に挨拶しなきゃ!」
小さな子供のように喜ぶムーアさんをみて、私はこの道を選択して良かったのだと確信した。
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