第25話 顔合わせ
「ねえ、誠彦さんの実家にはいつ行くの?」
「そうだな。早めに行きたいところだね。ちょっと連絡してみるよ」
実家の番号に電話をかけると母さんが出た。今日は家にいるようだ。
両親のケータイに電話しても仕事中などで出ないことのほうが多い。なので一か八かの
『ああ、マコちゃん元気だった?』
「うん、元気。あのさ、今度の土日のどっちか、父さんと母さんが二人とも家にいることはない?」
『なんで?』
「ちょっと用事があってさ。どう?」
『ん~ちょっと待って。えっと……。土曜日なら二人ともなにも予定はないね。日曜日はあたしが午後から宿直当番で出勤だね』
母さんは看護師なので偶に夜勤や早番遅番があるのだ。それに土日だからといって休みとは限らないんだよね。父さんも休日出勤とかあるらしいし。
「じゃあ、土曜日は午前中授業だから、その後に帰るよ。二時過ぎぐらいに誰か駅にお迎え頼める? あ、軽トラは止めてね。こっち二人だから」
『なに、二人って?』
「そういうの含めて土曜日に話すから」
一応ちゃんと顔を見て話すつもりなので、今ここでバラすわけにはいかないんだよね。
『ふ~ん……。なんだろうねぇ~。マコちゃんが、折り入って話があるってなんだろうねぇ~』
もう母さんの話しぶりから揶揄の雰囲気が漏れ出ているんだけど、もしかしたら既に女の子絡み的なものだって気づかれているのかもしれない。
「じゃあ土曜日頼んだからな」
電話を切る。たった五分ほどの電話だったけど妙に緊張して手に汗かいている。
「土曜日?」
「うん、授業が終わったら即そのまま駅に向かって実家に行くことにしよう。お昼は駅のハンバーガーショップでパパっと済ませばいいよな」
ここが正念場。これを乗り切れば晴れて二人は大手を振って――は無理だけど、一緒に暮らせることになる。
🏠
午前中の授業を気もそぞろのまま受け終えたら直ぐに駅に向かう。季里とは以前も使った神社の境内で待ち合わせにした。
「緊張するね……」
「ああ。季里のお父さんと会った時もだいぶ緊張したけど、今回は親に話してからの間が空いた分余計に緊張の時間が長かった気がする」
季里のお父さんのとき場合は行き当たりばったり感が強かったので緊張する暇もあまりなかった。でも今回は親に電話をしたのが火曜日だったので今日の土曜日までが長かった。
前々から計画はしていても、いざその時ってなるとこんなにも緊張するものなんだな。
お昼は緊張のあまり食欲があまりなく、季里も僕もハンバーガー一つ食べただけでもう何も喉を通らなくなってしまった。
「時間ってかかるの?」
「電車の乗り継ぎさえ問題なければそうでもないかな? 電車がないと待ち時間が多いけど」
こんな時に限って目的の駅まで直行する快速電車が入ってきた。ここに来て早く行って楽になりたいと言う気持ちと行きたくないという気持ちがせめぎ合っていたりするのに……。
LIMEのメッセージで向こうの駅への到着時刻を母さんに伝えておく。迎えは誰が来るのだろうか? じいちゃんは軽トラしか乗らないから母さんかな……。
駅に着くとすぐに見覚えのある濃紺色したミニバンを見つけた。運転席には案の定母さんが座っている。
「季里、母さんがいる」
「うん……。すごく緊張してきた」
「行こうか」
「はい」
駅前は閑散としているので、ほんの十数秒で車に到着してしまう。母さんにリアスライドドアを開けてもらって車に乗り込む。
「お迎えありがとう」
「どういたしまして。……で?」
で、じゃないよ! そのニヤニヤした顔は止めてくれよ。
「こちら、今僕がお付き合いしている毒島季里さん」
「毒島季里です。よ、よろしくお願いします」
「マコちゃんって何でこんなにかわいい子ばかり捕まえてくるのかしらね?」
ばかりとか言うな。母さんは何処から仕入れたのか玲の顔は知っていたようなんだ。たぶんそれを言っているのだろうけどその話は終わったものだからぶり返してくんな!
「母さん余計なことは言わなくていいから!」
「はいはい。じゃあ、うちに帰るからね。季里ちゃんもそんなに緊張しなくて大丈夫だからね~」
季里はなんだかんだやはり緊張しているようなので僕は母さんに見えないようにそっと彼女の手を握った。
自宅までは大体三~四〇分ほどで着く。その後は母さんも余計なことは話さず世間話をしていただけだった。
県道から横道にそれて、つづら折りの山坂道を登っていった先のところに僕の実家ある。
「ハイ到着。居間にお父さんがいるからね。おじいちゃんも、珍しくみいなもいるわ」
なんだよ。家族全員集合じゃないか⁉ もしかして事前に電話したから待ち構えているのではないだろうか?
しかも妹のみいなまでいるとは驚いた。あいつ昔はお兄ちゃんお兄ちゃんとずっと後ろを着いてきていたのに中学生になった頃から僕には冷たい気がするんだよね。
「季里、行くよ。ごめんな、今日我が家は全員集合しているみたいだわ」
「こ、個別に挨拶する手間が省けていいんじゃない?」
そんなこと言っているけど、右手と右足が同時に前に出ているよ。ガッチガチに緊張してんじゃん。
「ただいま」
「お邪魔します……」
「いらっしゃいませ……。マコ兄ちゃんもおかえり」
玄関に入るとなぜかみいなが出迎えてくれた。思春期に入ってから僕に対してツンツンした対応しかしてこないのだが、今は声だけは抑えているけど目がキラッキラで季里に興味津々なのが見て取れる。なんだ、可愛いところもちゃんと残っているじゃないか?
「こちら、毒島季里さん。お兄ちゃんの彼女だ」
「毒島季里です。妹さんですね、よろしくお願いします」
「あ、はい。くっ、桒原みいな、一二歳の中学一年生です。えへへ、よろしくお願いします」
みいなは季里にデレた。いつもそうしてりゃホント可愛いのにな。
母さんも戻って来たので四人で居間まで向かう。
「では、改めまして。こちら毒島季里さん。僕の彼女です」
「初めまして。毒島季里です。今日は邪魔します、よろしくお願いします」
「いらっしゃい。私は誠彦の父の
全員が揃っていると少し仰々しくも感じる。でも、季里が行ったように一度で全部済ませられるからと考えれば楽か?
「あのさ。今日は季里を紹介するっていうのもあったんだけど、ちょっと大事な話があってさ……」
「まあ、今お茶入れるから少しは休んでから話になさいよ」
母さん……。話の腰折るのは止めてよ。僕だってこれでも緊張しているんだから。
「誠彦たちは昼飯食ったんか?」
「あ、ああ。一応」
今度はじいちゃんか。
「まんじゅう食うか? 昨日、
「じいちゃん、まんじゅうはいいよ」
「うんまいから一個食っとけ。お嬢さんも一個、ほれ」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
話をしようとした途端グズグスになっていく。もう、田舎者はこうだから困るよ。まあ僕も田舎者なので同類だけど。
因みに馬武はじゅん兄ちゃんちの屋号だ。で、うちのは
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