第23話 ばれてーら

「お、マコちゃん。疲れていながらも充実してるって感じの顔をしているね。どーした?」

「何だよそれ。どーゆー顔だよ? あとマコちゃん言うな」


 俊介はスマホをインカメラにして僕の顔を映して、こんな顔だって言ってくる。

 うるさいなぁ……。


「あのさ――恋人でもできたか?」

「……なんで」


「おっ、変な間が空いたな。図星か」

「……」


 何で僕がこいつに弄られないといけないんだ? 悔しい……。


「あぁ、あれか? 一年の優等生の子」

「な、なんでそう思うんだよ!?」


 いきなり正解を持ってくるとかなんなんだよっ! 何でお前はそんなに勘がいいんだよ。


「だってマコちゃんの女っ気って石築かその子ぐらいじゃん。えっと毒島ちゃんだっけ? 朝だって一緒に登校しているみたいだし時々帰りも一緒になっているだろ」


「……マコちゃん言うな」


「そうだな、もしマコちゃんの彼女が他の女子だったら俺は逆立ちしてグラウンド一周してやるよ」


「おま……ホント腹立つ」


 確かに僕の周りにいる女子といえば石築か季里しかいない。偶に櫻井さんもいるけれど、一対一では会うことは今までなかったからな。実質二人しかいないのは確かだね。


 それに対して僕とはまったく逆に俊介は実は女っ気だらけなのだ。一年の時のバレンタインデーなんてちょっとした大きさの段ボール箱いっぱいのチョコレート貰っていたぐらいだしな。


 バレーボール部の時期主将だなんて既に言われているぐらいのモテモテのエース様なくせに彼女はいないんだよな。一時期はあまりにも僕と一緒にいることが多かったのでそっち方面じゃないかって噂もあったらしいが、さすがの俊介もその噂は早々に打ち消したみたいだった。ほんとみんな馬鹿みたいな噂が大好きだよな。


「そういう俊介は彼女をいつになったら作るんだよ⁉」

「俺はいいんだよ。今はバレーボールに打ち込んでいるの。女は二の次ってね」


「ふ~ん。意外とストイックなんだな」

「二つのことが一遍にできない、不器用なだけだよ」


「お前みたいなイケメンが言うと嫌味にしか聞こえないな」

「マコちゃん酷い」


「うっさい! マコちゃん言うな」


 なんとなく話は逸らせられたかね? このまま有耶無耶にできたら最高なんですけどね‼


「で、話を戻すけど。マコちゃん、当たりだろ?」


 ダメでした。明明白白。全く誤魔化せていなかったようです。


「俊介……誰にも言うなよ」

「俺の口はチタンよりも硬い」


「チタンは硬いけど軽いじゃん」

「あれ?」


『あれ?』じゃないよ! だが俊介なら余計なことは言わないだろうし、言いふらすようなことは絶対にないと言い切れる。まぁ実のところはまだ僕の親にも報告していないのだけれど、もう僕も季里もこのまま交際するつもりだし、もし僕の親の制止があっても振り切ることしか考えてない。


 だからもう既に恋人同士になったと言っても何ら間違いはないだろうと思う。ここまでお互いに想い合っていて恋人同士じゃないとはいえないしな。


「ああ、俊介の言う通りだ。ついこの間から、な」

「そかそか。それはめでたいな」


「ん、さんきゅ」

「でも大変だな。マコちゃんとその子じゃ周りも大騒ぎだろうな」


 そうなんだよな。僕の方は悪い噂のアレの件だけど、季里の方も季里の方でいろいろあることが判明したんだ。

 季里は可愛い。それは僕だけが思っているんではなくてみんな思っているようで、季里はかなりの人気者らしい。


 特に男子に。


 いままで季里とは色恋の話は全くしていなかったし、僕自身が学園のそういう話に興味を持ったことがなかったので知らなかっただけなのだが、季里はめちゃくちゃモテるとのこと。


「彼女の話は俊介も知っているのか?」


「そりゃ二年生の間でもあの子はかなりの噂になっているからな。マコちゃんと違っていい噂だけどな」


「一言余計だ」


「ふっ、どうも。あれって、もう四月っから両手指じゃきかないくらいは告白されているっていう話じゃん。マコちゃんは平気なん?」


 平気か平気じゃないかと問われれば、平気ではない。平気でいられるわけもない。

 そのことを僕が知らない間ならば特段気にもしていなかっただろうが、いざ知ってしまったあとでは気にしないことなど不可能に近い。


 ただ季里に言わせれば「そんなの無視だよ。私の心は誠彦さんでいっぱいだから他の人が入る余地なんかまったくないからね」なんだそうだ。


 そう言われることは嬉しいし安心できる材料ではあるのだけれど、だからといってまったく心を乱されることはないかというとそうはいかない。

 そういう気持ちが自分の嫉妬心や独占欲から来ていることも十分に承知している。恥ずかしい限りではあるが認めざるを得ない。


 僕が俊介のようにイケメンで勉強や運動に長けていて自信を持っていられるのならばこうは思わないのかもしれないが、如何せん僕はイケメンでもないし勉強だって運動だって中庸な男だ。

 バランスが取れているといえば聞こえはいいが、要するにこれと言って特徴がないってことになるんだよな。悪い噂だけは突出しているんだけど……。


「余計なことを考えているって自覚はあるんだ」


「そうなんだ。まっ、マコちゃんがいちいち考えたところで彼女のマコちゃんへの思いって変わんないんだろうけどな」


「そうなんだろうか?」


「マコちゃん、彼女に一番近いところにいるくせにわかってないのかよ? それはそれで俺もびっくりしちゃうぞ⁉」


 わかってない? 何がだ……。


「僕が何か見落としているとでも?」


「どうせ当人にはしっかり言われているんだろうけど、俺から見たって彼女はマコちゃんしか目に入ってないぞ」


 少なくとも俊介からみて季里は僕のことしか眼中にないってわかるってことなのか。それはそれで恥ずかしいけれど、嬉しいかな。だからこそ俊介に速攻でバレたのだろうけど。


「そっか」


「そうそう。だから、マコちゃんはドシッと構えてあの子を信じてやりさえすればいいってことなんだよ。マコちゃんが不安でいちゃ彼女の方も不安になるだろう? しっかりしろよな!」


 俊介がモテるのも時期主将に目論まれているのもよく分かるな。ほんといい友人を持った僕は幸せだよ。


「サンキュ、俊介。気持ちが軽くなったよ」

「おう、礼なら明日のランチで構わんぞ!」


「ったく……ふぅ、まあいいか。じゃ明日のランチは任せておけ。あと、マコちゃん言うな」

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