第22話 季里、弟を欲しがる

「改めまして。はじめまして、季里さんとお付き合いしております桒原誠彦と申します。稜秀学園の二年生です。よろしくお願いします」


 喫茶店に入って注文を済ませたら誠彦さんから会話を始めてくれた。リードしてくれる誠彦さんかっこいい!


「ああ、先程は済まなかった。ちょっと驚いてしまってね。季里の父親の毒島幸弘といいます。で、娘との付き合いはいつ頃から? いやね、入学したのが二ヶ月前だろ? 彼氏を作るのがちょっと早いかなって思ってね」


 時間が問題ではなく、単なる興味本位だからあまり硬くならなくていいよ、なんてお父さんは言っているけどまずは自分のことを話しなさいよ! まぁ、私らも付き合う云々の前にもっと重大なことはまだ話していないんだけどね!


「付き合い出したのはついこの間からなんですけど、その前から色々とありまして……」


 そう、まだ言えないわよね。まだ早いわ。


 まず私としては、私たちのことよりもお父さんの方を片付けたいので誠彦さんの制服の袖を引いて話を止めてもらう。


「ん、なに?」


「んん、ちょっと誠彦さんの話は後にしてもらっていい? まずはお父さんの方も紹介してもらわないと」


「そうか、済まないね季里。此方は山崎冴子さん。ポートランドの事務所の同僚なんだけど……いまお父さんがお付き合いしている人なんだ」


 ほう。やはりお付き合いときたか。冴子さんは年の頃は三〇歳ちょっとって感じかな。かなり若い子を捕まえたな、お父さん。やりおる。


「はじめまして季里さん。幸弘さんとはもう三年ほど前に同僚として東京ラボで知り合っていたのですが、今回ポートランドで再び同僚になるということで親密になりまして、この度結婚を前提にお付き合いすることになりました。ずっと黙っていてすみませんでした」


 なるほど、結婚を前提に、ですね。多分三年前もいい感じにはなっていたんだろうけど、転属か何かで離れ離れになったのが、今回二人はアメリカで運命の再会を果たし燃え上がってしまったと言うことなんだろうな。私の勝手な推測だけど。


 それはそれとして、冴子さん、謝るのは違うと思います。


「冴子さん、謝らないでください。父を支えてくれてありがとうって私の方からいいたいぐらいですよ。私も心細かったのを誠彦さんに支えてもらったのでよくその気持はわかりますので!」


 本当にそう思ったけどちょっとずるい言い回しになってしまったなぁ。わざと言ったわけじゃないから変な勘ぐりとかいらないですよ~。


「そ、それを言うなら父さんの方も誠彦さんにお礼を言いたいぐらいだぞ。たしかに季里も初めての一人暮らしでさぞや不安がいっぱいだったろうからね」


 あ、やべ。やっちまったなー。そっちの話はもう少しあとになってからって思っていたのに。


「あは、あははは………。あのね、お父さん。実はあのアパートなんだけど燃えちゃってね――――」


 🏠


「ここに季里たちは住んでいるんだね」

「はい。狭いですが、どうぞお上がりください」


 気が急いていたのかお父さんはタクシーで私たちの自宅までやってきた。駅からうちまで五分で着いた。車って早いね。もう少し遅くっても良かったんだけどなぁ。


「きれいにしているんだな」

「うん、私がしっかり掃除を行き届かせているからね」


 当たり前だ。私が誠彦さんのお家を汚している訳がない。


 誠彦さんがお茶の用意をしてくれている間に事の経緯を仔細にお父さんに話しておくことにする。

 結果、お父さんには「何故すぐに連絡をしてこなかったんだ」とか「父さんが来なかったらいつまで黙っているつもりだったんだ」などと叱られた。むっちゃ正論だし、全部私の落ち度だったのでぐうの音も出なかった。


 誠彦さんがお茶を出してくれた。香りからしてとてもお高い、いいやつのはず。

「あと、さっき季里に話していたことすみませんでした。僕にも責任の一端がありますので謝罪させてください」


 そんなことはない! 悪いのは全部私のせい。私がしっかりしていれば誠彦さんは頭を下げる必要なんてなかったのに!


「誠彦くん、頭を上げてくれ。たしかに君たちのやったことは褒められたことではないかもしれないが、親の私からすれば娘の危機に手を差し伸べてくれたくれた事自体は感謝しかないのだらね」


「っ。ありがとうございます」


 この後、誠彦さんの誠意がお父さんに伝わったのか、お父さんに同棲を許してもらえた。これで晴れて恋人として堂々と出来る。ということは、いろんなことが! げへへ……。


🏠


「じゃあ季里の話はこれでいいな。次はお父さんの話を聞いてくれ」

「うん。冴子さんのこと?」


 ごめんなさい。すっかり忘れていました。


「そうだ。さっきも言ったがわたしはこの冴子との結婚を考えている。季里、突然だが冴子がお前の継母になることを認めてはくれないか?」


「季里さん。いきなりなんの連絡もなしに現れて都合のいいことを言っていると思われるかもしれないけど、私たちは真剣なのです。どうぞお願いします」


 急に二人が頭を下げてお願いしてきたのでびっくりしてしまって声が出ない。こんなときでも誠彦さんは私の手を握ってくれて励ましてくれる。優しい。


「お父さん、冴子さん。頭を上げて。お母さんが亡くなってもう五年だもの、お父さんだってまだまだ人生長いんだし、パートナーになってくれる人が必要だと思うよ」


 これは間違いなく私の本音だ。継母って聞くとびっくりするけれど、誠彦さんのお宅の話を聞いたあとならば私だって大丈夫だって思えた。


「冴子さん。私はあなたに今日はじめて会ったばかりなのでなんとも言えませんけど、お父さんが選んだ人ですから間違いないと思っています。ぜひお父さんのことを支えてあげてください。あと……私の新しいお母さんになってください。お願いします」


「季里!」

「季里さん!」

「お父さん! お母さん!」


 なんか感極まって三人で抱き合って号泣しちゃった。でもすごく心がほんわかして気分が良かった。

 ちらっとみた誠彦さんも泣いていた。お父様のこと思い出したのかな?


 一時はどうなるかと思ったけど、最後には円満解決となって良かったよ。なんかいい感じのお継母さんも出来るみたいだし! あとね、どうせなら弟がほしいです。




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