第20話 許し

 時間短縮。時は金なり……。

 幸弘さんがタクシー代を払ってくれたので駅から自宅まで一五分もかからずに着いた。


「ここに季里たちは住んでいるんだね。これはなかなか素敵なお宅だ」

「はい、ありがとうございます。狭いですが、どうぞお上がりください」


「きれいにしているんだな」

「うん、私がしっかり掃除を行き届かせているからね」


 それは今、胸を張って言うことではないよね?


 幸弘さんと冴子さんをリビングに通し、ソファーに座ってもらう。

「お茶は僕が用意するから、季里はお父さんのところにいてあげて」


「うん、ありがとう。ちょっと話してくる」

「本当に二人で住んでいるんだなぁ」


 幸弘さんは怒りや憤りではなく驚きを感じているようだ。ただし、まだ許してもらったわけではないので油断はできないが。



 僕がお茶の準備をしている間に季里は住むはずだったアパートが火事にあったところから、僕の家に来たところまでの経緯の話をしていた。


 季里は幸弘さんに「何故すぐに連絡をしてこなかったんだ」とか「父さんが来なかったらいつまで黙っているつもりだったんだ」などと叱られていた。正論だし、その責任は僕にもあるので非常に耳の痛い話だった。



「狭山の良いお茶で美味しいかと思います。どうぞお召し上がりください」

「ああ、ありがとう。ん、本当に香りもいいな。アメリカにいると日本茶はあまり馴染みがなくなるからね、嬉しいよ」


「あと、さっき季里に話していたことすみませんでした。僕にも責任の一端がありますので謝罪させてください」


 幸弘さんの前で正座してしっかりと謝罪の気持ちを込めて謝らせてもらった。親の気持ちってものを考えてみれば心配以外には何もなかったと思う。

 中学の頃の玲のお母さんだって心配が高じてあの怒りへと繋がっていったに違いないから。結局、僕は同じ過ちを繰り返してしまったのだ。


「誠彦くん、頭を上げてくれ。たしかに君たちのやったことは褒められたことではないかもしれないが、親の私からすれば娘の危機に手を差し伸べてくれたくれた事自体は感謝しかないのだからね」


「っ。ありがとうございます」


 アパートが燃えてしまったのは不可抗力だし、路頭に迷うところを助けてもらったのも事実。恋人同士になって同居が同棲になると心配事は増えるが、それはもう僕らを信じるしかない、との言葉を幸弘さんに頂いた。


 僕たちのひとつ屋根の下での生活とお付き合いを許してもらった。その言葉を聞いた季里は涙ぐみ、僕に抱きついて来た。それを見た幸弘さんはちょっと微妙な表情をしていたけど、もう仕方ないって感じだった。


「じゃあ季里の話はこれでいいな。次はお父さんの話を聞いてくれ」

「うん。冴子さんのこと?」


 幸弘さんが一時帰国して来たのには季里が心配だったってことが第一だと思うけど、この冴子さんの件も大事な要件に違いない気がする。


「そうだ。さっきも言ったがわたしはこの冴子との結婚を考えている。季里、突然だが冴子がお前の継母になることを認めてはくれないか?」


「季里さん。いきなりなんの連絡もなしに現れて都合のいいことを言っていると思われるかもしれないけど、私たちは真剣なのです。どうぞお願いします」


 今度は幸弘さんと冴子さんが季里に頭を下げてくる。当の季里は面食らってしまいあたふたと幸弘さん、冴子さん、そして僕の顔を順番に見回して当惑しっぱなしだった。

 僕にやれることといったら季里の手を握ってあげるぐらい。でもそれによって季里は落ち着けたようだった。ぎゅっと僕の手を強く握ったまま季里はお父さんに語りかける。


「お父さん、冴子さん。頭を上げて。お母さんが亡くなってもう五年だもの、お父さんだってまだまだ人生長いんだし、パートナーになってくれる人が必要だと思うよ」


 二人は頭を上げて季里の話の続きを聞こうとする。


「冴子さん。私はあなたに今日はじめて会ったばかりなのでなんとも言えませんけど、お父さんが選んだ人ですから間違いないと思っています。ぜひお父さんのことを支えてあげてください。あと……私の新しいお母さんになってください。お願いします」


「季里!」

「季里さん!」

「お父さん! おかあさん!」


 三人が抱き合って涙する感動のシーンだ。今ここに新しい家族が誕生したんだ。思わず僕ももらい泣きしてしまった。僕もちょっと父のことを思い出していた。


 🏠


 四人で夕食を囲んだあと、幸弘さんたちは帰っていった。何でも明日の夜には日本を発ってアメリカに帰らないといけないらしい。次に帰国できるのは早くてもクリスマスシーズンあたりになりそうだと言っていた。ただし、あてにはならないと言う但し書き付きでだけど。


 嵐のような出来事だったけど、振り返ってみれば幸弘さんとしっかり話ができてしかも同棲の許可までもらえたのはラッキーだった。


「誠彦さん、ありがとう」

「ん? なんのこと?」


「前に誠彦さんと継父さんとのお話聞いたでしょ。あれを聞いていたから冴子さんのこと案外とすんなりと受け入れられた」

「そっか」


 じゃあ、恥ずかしかったけど話した甲斐はあったんだな。あの話で季里が食いついてきていたのは元カノの話だけだったと思っていたのにね。


「もう今夜から一緒のおふとんで寝れるね?」

「なんで⁉」


「だってお父さんから許可貰ったし。もうイチャイチャしよう!」

「まだだって! うちの親にも話し通さないと!」


 順番的にはそっちが先の予定だったろ? イレギュラーで幸弘さんのほうが先になっただけのこと。

 忘れずに桒原の家にも話を通さないとそれこそ同じことの繰り返しの繰り返しになってしまう。季里とは別れる気なんかこれっぽっちもないけど、こればかりは譲れない。


「もう、ケチ! もっとイチャイチャしたい~ えっちなこともしたい~ せめて、ちゅ~だけでもしたい~」


「いきなりぶっちゃけたな」


「だって、今夜ぜったいにお父さんと冴子さん燃えまくっているに違いないもん! 一つのベッドでくんずほぐれつ、ぐっちょんちょんだもん」


「そーゆーこというなってば!」




★★★

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