第17話 季里 意気込む

 暫くの間、私は頭が真っ白というか真っピンクというか。兎に角ふわっふわっした気持ちで心ここにあらずって感じだった。幸せ。



 暫くしてやっとの事で気持ちが落ち着いてきた。


「ごめんなさい。急に誠彦さんがあんなこと言うから」

「聞いてきたのは季里の方だぞ」


 はい、その通りでございます。


「それはそうなんだけど、まさかそんな風に言われると思ってなかったから」


 落ち込んで底に落ちそうな気持ちだったところから女優より可愛いって言われたら瞬間湯沸かし器の如くなるに決まっているでしょ?


 でもこれで有耶無耶にしてはいけない。もっと大事なことを聞かないと。


「さっきの話だと、あの……誠彦さんは、その彼女としたんだよね」

「? したって?」


「あ、あの……せ、セックスを」

「ああ。したな。若気の至りってやつかもしれないけど、ここまで来て隠しても仕方ないと思ったから思い切って話した」


 軽く言わないでよ! すごく大事なことなんだからねっ!


「童貞じゃなかったんだ……。初めての人だったの? それに彼女とはいっぱいしてたの?」


「そうだね、初めてだった。回数は……自分たちの小遣いだけじゃゴムが買えないぐらいはやってたんだろうな。さすがに回数までは数えていないけど」


 五月蝿い! そんなことまで聞いていない! 数えられないほどって何よっ!


「そ、そこまで赤裸々な告白はいらないよ……」

「そっか。ごめん」


 でも、コンドームって一箱いくらなんだろう? 何個入り? 誠彦さんのお小遣いってどれくらいだったの?

 仮に一箱一〇個入り千円としてお小遣いが三千円だったとしたら、三〇個。つまり三〇回……それでも足りない回数って?


 なんかムカつく。



 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。

 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。

 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。

 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。

 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。

 ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく、ムカつく。



 やばい。闇落ちしそうだ。腸が煮えくり返るっていうのはこういうことなんだな。初体験。



「はい。お茶」

「ん、ありがと」


 条件反射でお茶を受け取りお礼まで言ってしまった。今私、とおっても怒っているんですけど? いや、お茶飲んで落ち着こう。


「ねえ、誠彦さん」

「ん」


「このお家には私たち二人きりよね」

「そうだね」


「私としたいって、思わなかったの? あの、その……そこまでじゃなくてもえっちな気分になるとか」


 そうよ。それが大事。私のことはなんとも思っていないの? 女として見てくれていないの? 可愛いっていうのは口先だけなの?


「……実際問題、ならないわけ無いよ。我慢と忍耐の毎日だよ。当たり前じゃないか、顔もスタイルも性格もみんなかわいい君がしょっちゅう僕の目の前を甘い香りを漂わせながらウロウロしているんだよ。完全に五感に対する毒だし、自分を律するのに日々精一杯だよ」


 ほへっ。えへへへへへ。無茶苦茶女として見られていた。うれしい。おっと顔がだらしなくなってしまう。


「……そっか。ならいいか」


 なんだ。我慢していたのか。顔もスタイルも性格まで可愛いってか! うへへへ。五感に対する毒、ね。もう完全に悩殺していていたじゃないの!


「僕も今よりもずっとガキだったとはいえ、自分勝手な解釈でさんざん好き勝手して周りに迷惑を掛けたんだ」


 そうか。以前は欲望のままいたせいで元カノと引き裂かれたんだもんね。


「だから、せめて双方の親には僕らが真剣に交際することは伝えておきたい。特にましてやこの家で一緒に暮らしているとなると、その経緯などはしっかりと話しておかないといけないと思うんだ」


 なに? ちょっと待って! 突然にって!? まさか。そ、そういうことなのかしら‼


「僕も季里のことが好きだ。情けないことに季里に告白の先を越されてしまったけどね」


 うわぁ~やった! やたやたやたたた! ひゃほーい! ここにカップル爆誕! あ、浮かれている場合じゃないわ。親に話すってことは……。


「もし駄目だって言われたら?」

「その時は僕が実家に戻るよ。季里はここにこのまま住めばいい」


 誠彦さんが出ていくなんてそれはいくらなんでも申し訳が立たないわ。転がり込んだのは私の方なんだから。


「出て行けって言われるのは私のほうじゃないの?」

「いや。この家と土地は名実ともに僕の持ち物になっているから平気だよ。じいちゃんが誕生日プレゼントだって僕の名前で移転登記していた。何やってんだかね」


 はい? 僕の持ち物だと。えっと、この家が? 高校生で家持ち、だと⁉

 おっと、そっちだけではなくって。


「もし交際が駄目だって言われたら?」

「それはないと思うけど、もしだめだって言われてもどうにか説得するよ。もう僕には季里なしなんて考えられないからね」


 キュン! お腹が熱いわ。私なしなんて考えられない、なんて……誠彦さん!


「うれしい……」


 もう居ても立ってもいられない。私はもう我慢できない! 私は誠彦さんの胸に飛び込んだ。


「えへへ。やっとギュッてできた」

「季里……好きだよ」


 誠彦さんが私のことを見つめてくれる。ああ、視線を外すことなんてできないわ……。

 誠彦さんの匂いを深呼吸で吸い込む……はぅ、とろけそう。


 ああ、このままチューしたい!

 でも、まだ。


 がまん。


 そうよっ、私が誠彦さんの最初の女性じゃないなんてもうどうでもいい。これからずっと先まで私が誠彦さんを独占するの。


 胃袋だけじゃなくていろんな袋をがっちり掴んで離さないつもりだから待っていてね。

 わたし、誠彦さんが考えているよりも強欲でえっちな女の子ですからね。覚悟していてね。




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