第16話 季里 壊れる

 六月に入ったとある日。今日も私と誠彦さんはいつものように学園に一緒に登校をしている。

 ただし、込み入った話は学園前の通りに着くまでで、その後は他愛も無い話をしながら歩いていた。


 もうちょっとで校門に差し掛かるってところで後ろから声をかけられた。


「おはおは! 季里!」

「あっ、おはよう凛ちゃん」


 親友になった櫻井凛ちゃんだった。凛ちゃんはゆるふわ系のとっても可愛らしい女の子なんだよ。ちょっと幼い感じがとてもキュートなの。


「せんぱいもおはようございます」

「おはよう、櫻井さん」


 凛ちゃんは誠彦さんとも普通に話をしてくれる。あの変な噂は信じていない、よくわかっていらっしゃるいい子なんだよね!


「ねえねえ、季里。最近良くせんぱいと一緒にいるよね。朝だけじゃなくて放課後も。もしかして二人はぁ?」


 凛ちゃんはうりうりと肘で私の肩あたりをつついている。あれ? これはチャンス⁉


「私はそのつもりなんだけど、誠彦さんのほうが乗ってきてくれないのよね」

「きゃ~ 季里ったら大胆~ もう、せんぱいのことも名前で呼んでいるんだね!」


 凛ちゃんナイスつっこみ! 家の外では私も桒原先輩って呼んでいたからね。


「どうなんでしょうね、誠彦さん?」

 あざとくシャツの裾をちまっと掴んで引いてみる。


「ど、どうって……」

 困ってる、困ってる。はっきりしてくれない誠彦さんが悪いのよっ。


「どうなんですか⁉ 桒原せんぱいっ!」

 凛ちゃんナイスアシスト!! どう? 誠彦さんも答えて。


「あっ、俊介! おっす! じゃね、ふたりとも」

 チッ! 逃げたよ……。でももう今夜は逃さないからね⁉


 🏠


 夜。


「季里。朝のあれってなんだったの?」

「誠彦さんさんはどう取りましたか?」


 そんな疑問には質問に質問で返すよ。


「ああいう言い方は周りに勘違いされるような言い方だと思うな」

「勘違い?」


 勘違いってどういうことかしら。


「ぼ、僕に季里が……あ~なんていうか」

「好意を持っている、とか?」

「そう。誰だって勘違いする可能性があるじゃないか?」


 なるほど勘違いってそういうことなのね。実際に勘違いしているのは誠彦さんの方みたいだし、これでは埒が明きそうにないから多少誘導してみた。


「勘違いじゃ………なかったら?」

「えっ?」

「勘違いじゃなかったら、誠彦さんはどうしてくれるの?」


 これだけヒントを上げているのだからちゃんと答えてね‼ 私的に今が攻めどきじゃないかしら? もうこうなったら女は度胸よ!


「……えっと、それは?」

「私が誠彦さんに好意を持っていることが勘違いじゃなかったら、誠彦さんはどう答えてくれるの?」

「へ?」


 あれ? もしかして私の気持ちが未だにちゃんと伝わっていないかも。これははっきり言わないとわからない童貞鈍感男子みたいだわ。


「誠彦さん。私、本気です。誠彦さんのことが好きです」

「……」


 回りくどい駆け引きは不得意だし好きじゃないからストレートに言ってみた。

 おや? 無反応。というよりちょっと驚いている? それとも私の告白が失敗……えっ?


 誠彦さんは冷めたコーヒーを口に含み、じっと見つめてくる。手が震える……。


「私じゃ駄目なの? 誠彦さんは今誰か好きな人がいたりするの?」

 なんとかかすれながらも声に出して聞いてみた。


「いや、そういう人はいないよ」

 一瞬ホッとしたけど、ではどういうことなの? ねえ。


「じゃあ……なんで答えてくれないの。駄目なら駄目ってはっきり断って欲しい」

 なんだか誠彦さんは諦観したような表情をする。やはりこれは良くない傾向だったりする? え、やだ。


「僕の話をするよ。僕が今、季里に答えられない理由の一つでもあるんだけど、それで君が僕に愛想を尽かしてしまうならそれもまた仕方がないかな」


「そんなことはないと思う。でも、そんなに大変な話なの?」


「それもひっくるめて季里が判断してくれると助かるよ。じゃあ、話すね。これは僕が中学生の頃の話なんだけど――――」



 聞いた。


 誠彦さんの過去の話。


 衝撃だった。


 なんてこったい。


 頭が真っ白になるってこういうことなんだね……。途中からもう誠彦さんの話が全く頭に入ってこないんですけど。



「この件があって、父とは今や血の繋がり以上の関係を気づけたと思っているんだ。だけど、一方で、この件によって男女交際ってものに臆病になっているのも否定はできないね。まっ単純な話、何がどうなるにせよ筋を通さないと駄目だってことぐらいは学習したかもね」


「まぁこんな感じ。これでももっとちゃんとしなきゃなぁとは僕自身思っているんだ。ほんと情けなくてごめん」


「えっ? 誠彦さん彼女いたの? えっ、聞いてないんですけど? はっ、どういうこと?」


 衝撃の事実、元カノの存在。いやいや、聞いてないんですけど? ああ、今初めて聞いたんだけど。


「いや、話の要点はそこじゃな――――」

「ちょっと黙って! 私の質問にちゃんと答えてよ」

「あ、はい……」


 大事な話なんだから要点がどうしたこうした関係ないからね! つっか最重要点はそこだから!


「誠彦さん、彼女いたの?」

「はい、中二のころの僅かな間だけですけど。いました」


 うん。それはさっき聞いた。再確認、大事。


「で! どこでどうやって知り合ったの?」

「あ、あの。さっきも話した通りゲーセンで。何やっているの、上手だね、みたいな感じで」


 は? ナンパ? 女の方からだから逆ナンってやつ?


「声は可愛いって言っていたけど、顔は? スタイルは?」

「えっと……女優の浜仲美波をちょっと幼くさせたような感じ……かな?」


 ‼ 可愛い女優ランキングの上位ランカーじゃないの!


「はぁっ⁉ めっちゃかわいいじゃないの! どーゆーこと?」

「そ、そればっかりは僕がどうこうじゃないから……」


「私とどっちが可愛いの⁉ ねえ答えてよ!」

 ねぇちょっとはっきりさせてくれない? 上位ランカーと一般人JKじゃ分不相応な対比だけど、もうなりふり構っていられないんです⁉


「それは季里だけど……」

「え? なに、聞こえない!」


 男なんだからはっきり答えなさいよっ。でもやっぱり女優のほうが上に決まっているよね……。


「僕的には季里のほうが断然可愛い……よ」


 ~~~~~! えっ?


「へひゅ、あう%$☆※!&………」


 あう%$☆※!&@_@”””ぷしゅう………。



☆☆☆

季里さん壊れてしまいましたww

面白い! 次が読みたいって思っていただいたらぜひ★レビューお願いします!

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