第15話 両思い
「この件があって、父とは今や血の繋がり以上の関係を気づけたと思っているんだ。だけど、一方で、この件によって男女交際ってものに臆病になっているのも否定はできないね。まっ単純な話、何がどうなるにせよ筋を通さないと駄目だってことぐらいは学習したかもね」
あの時の玲の母親の恐ろしい形相が目に浮かんだり、あの時の継父に対する申し訳ない思いが思い浮かんだりするのが影響している可能性もふんだんにある。だからこそ間違いは正し、やるべきことをやって、伝えるべきは伝えようと思っているのだけど、未だに胸を張ってできていますとは口が裂けても言えない……。
「まぁこんな感じ。これでももっとちゃんとしなきゃなぁとは僕自身思っているんだ。ほんと情けなくてごめん」
「えっ? 誠彦さん彼女いたの? えっ、聞いてないんですけど? はっ、どういうこと?」
「いや、話の要点はそこじゃな――――」
「ちょっと黙って! 私の質問にちゃんと答えてよ」
「あ、はい……」
ここは僕と父との話のほうが大事だと思うんだけどな……。伝えるべきだと思っていながらも未だに季里と二人で暮らしているってことを親に黙っているわけで、しかも、うちの親だけじゃなく季里の親に対しても不義理を働いていることにもなるので言い訳ができない。
でも季里的には今はそこじゃない、らしい。なんか目が怖いし。
「誠彦さん、彼女いたの?」
「はい、中二のころの僅かな間だけですけど。いました」
質問というか、これでは取り調べじゃないかな?
「で! どこでどうやって知り合ったの?」
「あ、あの。さっきも話した通りゲーセンで。何やっているの~、上手だね~、みたいな感じで」
確か玲の方から声をかけてきたんだったよな。
「声は可愛いって言っていたけど、顔は? スタイルは?」
「えっと……女優の浜仲美波をちょっと幼くさせたような感じ……かな?」
「はぁっ⁉ めっちゃかわいいじゃないの! どーゆーこと?」
「そ、そればっかりは僕がどうこうじゃないから……」
「私とどっちが可愛いの⁉ ねえ答えてよ!」
え、えええ! 答えなきゃいけないの? マジこんな状況で言うことじゃない気がするんだけど……。
「それは季里だけど……」
「え? なに、聞こえない!」
「僕的には季里のほうが断然可愛い……よ」
「へひゅ、あう%$☆※!&………」
季里はボンッ‼ って音が聞こえるように顔を真赤にしてあたふたし始めた。そんなになるなら聞かなきゃいいのに……。
残りのコーヒーを飲み干し、季里に気づかれないようにそっとため息をついた。
🏠
暫くすると再起不能だった季里だったが、やっと再起動してきた。
「ごめんなさい。でも急に誠彦さんがあんなこと言うから」
「聞いてきたのは季里の方だぞ」
「それはそうなんだけど、まさかそんな風に言われると思ってなかったから」
さっきまでの勢いはどこかに行ってしまったらしくしおらしくモゴモゴと話してくる。
「さっきの話だと、あの……誠彦さんは、その彼女としたんだよね」
「? したって?」
「あ、あの……せ、セックスを」
「ああ。したよ。若気の至りってやつかもしれないけど、ここまで来て隠しても仕方ないと思ったから思い切って季里にも話したんだ」
結局はそれが僕の犯した過ちのメインの原因のようなものだから隠したら話が通じなくなるしね。
「童貞じゃなかったんだ……。初めての人だったの? それに彼女とはいっぱいしてたの?」
「そうだね、初めてだった。回数は……自分たちの小遣いだけじゃゴムが買えないぐらいはやってたんだろうな。さすがに回数までは数えていないけど」
「そ、そこまで赤裸々な告白はいらないよ……」
「そっか。ごめん」
余計なことを言ってしまったらしく、季里の顔が少し、いや、かなり怒ったようになってしまった。
コーヒーも飲み終わってしまった。喉がかわくしお茶でも淹れようか。この間お茶屋の梅津園でいいお茶っ葉買ったからあれにしよう。
「はい。お茶」
「ん、ありがと……」
静かな部屋にお茶を啜る音だけが聞こえてくる。
「ねえ、誠彦さん」
「ん」
「このお家には私たち二人きりよね」
「そうだね」
「私としたいって、思わなかったの? あの、その……そこまでじゃなくてもえっちな気分になるとか」
「……実際問題、ならないわけ無いよ。我慢と忍耐の毎日だよ。当たり前じゃないか、顔もスタイルも性格もみんなかわいい君がしょっちゅう僕の目の前を甘い香りを漂わせながらウロウロしているんだよ。完全に五感に対する毒だし、自分を律するのに日々精一杯だよ」
しかも春先からキャミソールにショーパンなんて格好して彷徨くんだもんな。肌色成分が日頃から多すぎるんだよ‼
「……そっか。ならいいか」
季里がぼそっと何か言ったが聞き取れなかった。そしてまた真っ赤になって俯いてしまった。もう髪の毛の間から見える耳まで真っ赤っ赤になっているじゃないか? 聞いたのは季里の方だからね?
「僕も今よりもずっとガキだったとはいえ、自分勝手な解釈でさんざん好き勝手して周りに迷惑を掛けたんだ」
「うん」
「だから、せめて双方の親には僕らが真剣に交際することは伝えておきたい。特にましてやこの家で一緒に暮らしているとなると、その経緯などはしっかりと話しておかないといけないと思うんだ」
「えっ、それって」
「僕も季里のことが好きだ。情けないことに季里に告白の先を越されてしまったけどね」
季里が僕に好意を向けてくれていることはなんとなくわかっていた。男女交際に臆病だからこそ、間違いが起きる前に順番だけは守りたかった。
「もし駄目だって言われたら?」
「その時は僕が実家に戻るよ。季里はここにこのまま住めばいい」
僕の方は住所変更の手続は一切していないので誰にも気づかれずに去れる。季里の方は住民票も学校への届けもこの洋館になっているからね。
「出て行けって言われるのは私のほうじゃないの?」
「いや。この家と土地は名実ともに僕の持ち物になっているから平気だよ。じいちゃんが誕生日プレゼントだって僕の名前で移転登記していた。何をやってんだかね」
書留で家と土地の権利書が届いたときにはさすがにじいちゃんに抗議の電話を掛けたよ。言っても既に無駄だったけどね。
せめて固定資産税分くらいはバイトでもして稼がないといけないな……。
ということで、家主がOK出しているのだから問題はないんだ。
「もし交際が駄目だって言われたら?」
「それはないと思うけど、もしだめだって言われてもどうにか説得するよ。もう僕には季里なしなんて考えられないからね」
でも季里の親御さんからだめを出されたらどうしよう。その時はその時でアメリカまでお願いに行かないといけないのかな。
「うれしい……」
季里は僕の胸に飛び込んできてそうつぶやく。僕も季里のことを優しく、そして強く抱きしめる。
「えへへ。やっとギュッてできた」
「季里……好きだよ」
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