第7話 学園一の問題児
季里の入学式を最後まで見てから移動してきたので教室に入るのが若干遅くなった。もう教室には生徒の殆どが登校済みのようだった。
二年三組。教室棟の中央階段の直ぐ側が僕の新しいクラス。
僕が教室に入ると一瞬しんとなった感覚。すぐさまそれ以前の喧騒に戻っていったけれど……。
一度この教室に集合したあとに先ほど入学式を終えたばかりの体育館へと移動して新二年生と新三年生だけで始業式を執り行う。さっきも聞いた学園長のつまらない訓示をもう一度聞かねばならないと思うと気が滅入る。
自分の席を確認して座ると直ぐに肩を叩かれた。
「よう! マコちゃん。今年も一緒だな! よろしく!!」
僕と仲のいい飯田俊介だった。あんなことの後でも仲良くしてくれる奇特なやつなので大事にしておきたい、と思うべきなんだろうな。
「俊介か。よろしく。あと、マコちゃん言うな」
「いいじゃん。気にすんなよ。稜秀学園一の問題児が細けぇこと気にすんじゃないよ!」
「うっさいな。問題児で悪ぅございましたね。だけどね、僕はあの時もあれ以降も特に問題なんて起こしていないんだからとっくに無効だと思うけど?」
「まっ、俺は最初から気にしていないからカンケーないんだけどな! なっ、マコちゃん」
「………マコちゃんいうな」
俊介が言うように去年の夏、場合によっちゃ学園にいられなくなるような騒ぎを起こしたのは間違いないのだけど、あれはあれで万事解決している。それでも周りは噂を巡らせ色眼鏡で見るようなことをしてきたのだ。その中でも一切噂を相手にしてこなかった友人の一人がこの俊介だった。
他の連中は僕に表立って何か言ってくることも接触してくることもないが、陰ではいろいろと噂をしていることぐらいは耳に入ってきている。
さっき僕が教室に入った途端、一瞬みんなの雰囲気が変わったことからも未だにその噂が健在であることの証左であるわけだ。
🏠
噂話の元ネタはこんなもんだ。
あれは高校生になって初めての夏休みに入ってだいぶ経った頃。八月に入って何日かしていた頃だったと記憶している。
その日は中学の頃の友だちと沢に遊びに行く約束をしていた。
メンバーは、僕に大介、一個上のけんちゃんにむらやん。あとふたつ上のじゅん兄ちゃんの五人。僕とけんちゃんは自分のバイクで、大介とむらやんはじゅん兄ちゃんのアルトワークスに乗って、槻川の上流の沢に遊びに行ったんだ。
通っていた中学自体生徒数が少なく学年の垣根なんて無いに等しかったのでこのメンバーも先輩後輩って言うよりも仲のいい友だちだった。
昼過ぎまで沢で遊んだあとは僕んちにきてBBQでもやろうって話になっていたんだ。で、昼過ぎ。濡れた服を着替えて帰ろうとしていたときに山道の下の方から爆音が数台上がってくるのに気づいた。
どうせ峠に来た走り屋だろうって、いつもの具合に無視して行こうと思ったんだけどけんちゃんが一台の車の異変に気がついたんだ。
けんちゃんは『服がビリビリに破れた女の子が乗せられていた』と一言。
それを聞いた僕たちは様子を確認するために山道を上に上がっていった爆音の車を追いかけた。
果たしてその現場に向かうと、今正に男九人で女の子一人を輪姦しようとしている最中だった。
僕たちは無我夢中で女の子を助けると、レイプ犯九人と対峙することになった。多勢に無勢でかなり厳しかったけれど、こちとら山男もどき。小さい頃からの山を駆けずり回り猪や熊と日々戦っていた(実際に格闘した訳では無いが)お陰で力だけは無駄にあったのでそれはもはや大乱闘と言っても過言ではない様相になった。
たまたま山登りに来ていた人が一一〇番通報しなければあのままどうなっていたのかわからなかっただろう。それぐらいお互いに無茶苦茶だった。
レイプ犯共は当然その場で駆けつけた警察官に逮捕されたけど、助けるためとは言え襲いかかった僕たちもなんのお咎めもなしとは行かないわけで。病院に寄ったあと警察署まで補導連行されてしまった。
そこから取り調べが行われ、犯罪性の有無やら非行の実態の調査やらいろいろと調べられた。その流れの中、学園にもこれ自体が知られることになったのだけど、当然ながら犯罪性はなく無罪放免となったので学園としてもお咎めなしになっていた。
しかし、この話は教師の誰かから生徒に漏れ出ることとなり僕は暴走族を壊滅させたとか、ヤンキー二人を殺したとか無茶苦茶な尾ひれがついて夏休み中の生徒間に噂が拡散されていた。実際には捜査協力と言ってのちに警察から表彰されているのだけどそっちには一切の言及が無かった。
🏠
画して夏休み明けの僕の評判は地に落ちていて、僕には悪辣で暴力的な粗暴な男というレッテルがつき皆に白眼視されるようになっていた。
レイプ絡みというセンシティブな内容もあって僕からなんの言い訳も説明もしなかったのも悪かったのだろうけど、なんともはやとしか言いようのないことに腹が立つレベルを超してしまっていた。
要するに呆れたってだけだけど、そのうち収まるだろうし僕が相手にしなければいいだけのような気もするので放置しているのが現状だったりする。
それでも何人かの友人は友人のまま傍にいてくれるのだからありがたい。その筆頭がさっきからうざい俊介だったりする。
「やっほー! おっはよーギリギリセーフだね!」
喧しいのがまた教室に入ってきた。そういえば彼女も同じクラスだったな。
「ああっ! 桒原くんっ、おっはよ~ また一緒のクラスだね‼ 春休みの野盗狩りはうまくいったぁ?」
「何それ。野盗なんていまどきいないでしょ?
いきなりハイテンションでおかしなことをいってきたのが友人の一人、
暴走族を野盗に置き換えて笑い話にしてくれているのだけど、わざわざ話をぶり返すこともないと思うのは僕だけじゃないはずだ。まあ、気を使ってくれているのはわかるのでありがたいとは思うのだけれども。
進級してもこの三人と一緒のクラスで良かったと思っているし感謝している。それくらい彼らは僕にとって大事な友だちだ。
★★★
カクマラソンに参加しよう! って言っても10更新/月がせいぜいなんですが・・・
今月は月水金で更新いたします! 頑張るよ!
評価コメントもお願いしますね!
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