第5話 入学式

 短いです。

☆☆☆


 あれから各種手続きや季里の荷物をレンタル倉庫に取りに行ったりしていたらあっという間に数日は過ぎてしまい気づけは四月に入っていた。エイプリルフールでふざけている暇さえなかったよ。


 🏠


 四月の一週目。春の日差しが心地よいがちょっとだけ肌寒い朝だ。


 今日は朝イチから入学式が執り行われ、その後在校生の始業式が行われる。ついでに新任式だのいろいろと一気にやっつけてしまおうって魂胆の一日になる。

 残念ながら今年は桜の開花が早かったので、学園に何本も植わっている桜の木は既にすっかり葉桜になってしまっているだろう。


 そんな朝に身支度を整えているにもまだ早い時刻なので春休みの余韻につかってコーヒーをリビングでちびちび飲んでいると季里に声をかけられた。彼女は入学式があるのでもう既に制服に着替え終えスタンバイオッケーな状態なはずだ。


「ねぇ誠彦さん、一緒に学園まで行ってもらってもいい?」

「ん~、なんで?」


「もし迷ったら大変じゃない?」

「すぐそこだよ。迷う要素のほうが少なくないかな?」


 家の前の路地を出たら、まっすぐ道なりに行って、学園前の通りに当たったら左折してまっすぐ行くだけで到着する。迷うほうが難しそうだけど。


「下見するのを忘れていて不安なの! 緊張もしているし! ねぇ、いいでしょ⁉」

「……かまわないけど。じゃぁ入学式に間に合うように早めに出ようか」


「お願いね!」


 朝イチからの入学式に比べ始業式は一〇時からとだいぶ遅いのだから僕自身は早く行く必要はないけど、季里が不安だって言うならついていくのもやぶさかでない。僕一人なら暇つぶしぐらいどこででもできるしね。

 ならばのんびりとコーヒーを飲んでいる場合ではない。とっとと身支度を済ませ、季里と一緒に出かけられるようにしないと!


 🏠


 季里と並んで学園まで一緒に歩く。焼けてしまったアパートも取り壊しが始まったみたいだ。


「ここに住んでいたら、誠彦さんとは知り合いにならなかったかも知れないね」

「そうかも。すれ違いぐらいはしていたかもしれないけど、友だちとかにはならなかったかもね」


 家の前の通りを一〇分ちょっとほぼ真っすぐに進んでいくと学園のある通りにぶつかる。ここまでは駅にも通じていないのでそもそもの人通りも少ないが、学園生の姿も皆無だった。

 学園前の通りに出ると流石に稜秀学園の真新しい制服に身を包んだ新入生がたくさん歩いていくのが確認できた。保護者と一緒に学園に向かう生徒も少なくない。


「季里のご両親は入学式に立ち会わなくて良かったのか?」

「転勤の時期の問題もあったけど、うちもいろいろあって」


「そっか。そういえばうちも誰も来なかったな。そういうものなのかもなぁ」

「お父さんは卒業式には何があっても出るからね、とは言っていたけどね」



 もう学園も目の前だしそろそろ別行動してもいい頃合いだろう。


「ここからは一人で行けるよね?」

「えっ、学園まで一緒に行こうよ」


「いや、僕なんかと一緒にいるところをもし誰かに見られてしまうと問題だろう?」

「? 別に何も問題はないと思うけど。誠彦さんには問題があるの?」


「今ここで話すようなことじゃないけど、いろいろとあるんだよ。だから、うん。僕は先に行くね!」

「あ、ちょっと!」


 困惑したままの季里をその場に残して、僕はひとり学園まで走って向かう。


 季里には申し訳ないけど、僕と一緒に歩いているところなんかを在校生にでも見られてしまうといろいろと面倒なことに巻き込む事になりかねないんだ。僕も残念だけど分かってもらいたい。


 🏠


 昇降口横にある掲示板でクラス分け表だけ見たら、体育館の隅っこにでもいよう。まだ教室は暖房も入っていないだろうから肌寒い今日みたいな日はただ待つのは辛すぎる。体育館なら入学式もやっていることだし暖かいと思うんだよね。



 僕はけっきょくこっそりと入学式の保護者席にちゃっかりと座って時間つぶしをすることにした。弟妹が入学してくる兄姉が入学式を見るのはよくあることなので紛れ込んでしまえば案外とバレないものなんだ。


 つまらない学園長の訓示などに船を漕ぎながら聞くでもなしに聞いていると、最後に新入生代表の挨拶って言うのがあった。たしか入試の成績トップが務めるんだったよな。


『新入生代表、毒島季里』

「は?」


 全く意識していなかった式典の中で急に知った名前が響いたので思わず声が出てしまった。


「ほぅ、新入生代表、ね」

 まさかあの季里が今年度入学生トップの才女様だったとはね。これはちょっと驚いた。


「今日、私たちは稜秀学園高等学校へ入学いたしました。先生方、先輩方には素晴らしい入学式を執り行っていただいた―――」


 彼女と同居の関係であることは学校にも友だちにも、今のところ家族にも内緒だけど、これはこれで季里とは知り合いであることも伏せておいたほうがいいのかもしれない。

 才色兼備な季里に学園の問題児が絡むとなると彼女にどんな影響があるかわかったもんじゃない。


 うん。

 これは、これからは慎重に行動をしなくてはならなくなったな。




☆☆☆

以降、週に1~2回の更新になります。よろしくお願いします。

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