第7話
錠剤を噛み砕く音がピタリと止んだ。
しまった。気に障ってしまったか。
もっと他に上手い台詞を考えついてからにした方がよかったか。
だが吐いた唾というのはもう飲めない。
沈黙。十数秒の沈黙。しかし永遠なるものを感じさせるほどの沈黙。
ほんの少し前に目覚めて今日という日を開始してから早幾度も僕はマリーの顔色をチラチラうかがってばかりいる。
どうして?多分それは捨てられたくなかったからだ。
野良の子犬や子猫が必死に愛想を振りまいて生き残ろうとしているような痛々しさ、惨めさ、無力の証明。
それらと何ら変わるところがない歪で耽美な主従契約の嘆願。
それが僕の日々を生き抜く術として骨の髄まで染み付いてしまっていた。
対等や平等といった関係を自らかなぐり捨てる悲しき卑しき奴隷根性を発揮して引き換えに得られるものなんてせいぜい一時の仮りそめの平和でしかないのに。
これも本で得た知識でしかないが、自分のことを自分で決められない者はそれが一個人であれ国家という巨大な存在であれ長生きできないそうだ。
その真理に照らし合わせてみると、じゃあ僕は?
生まれてから今までずっと誰かの庇護下にあった。
その誰かがやれと言えばやり、やるなと言えばやらない。
物事の判断基準や行動理念はいつも他人まかせ。
虚無という名の糸に操られている自覚がある、満面の苦笑いを浮かべた人形こと僕は薄汚れた布切れ一枚とパン屑欲しさにどんな滑稽な踊りを命じられても応えてみせていた。
仕方ない。これが僕の人生なんだ、と。
けれども死の予感が常に付きまとうこの生活を送っている中で考えが変わってきた。
その日のうちに破滅を迎える運命だとしても手枷、足枷のない自由な一日が欲しいと思うことが多くなった。
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