第5話

この序列関係を活かして、鮫の肉を食ったSPC会員達が追い込み漁さながら泳いで鮫を僕とマリーがいる岸側に上手く誘導し、美味いエサ二人以外の周囲の物体・場景に注意が向かないようにする。

そうしてまずマリーが全身全霊をもって挑発・牽制をしながら鮫の体力を削り、時間を稼ぐ。

僕はそんな海中での死闘を尻目に対物ライフルやら捕鯨砲を装備して陸で待ち構えているSPCの別動隊に向かって文字通り命がけで逃げる。

もちろん泳いで。気分は正に釣りエサだ。

この作戦は今のところ五度実行して五度とも成功しているのでヤケクソ気味な内容に反して安定した成果を出せてはいるが、毎回「今度こそ死ぬかも」とチビリそうになりながら(本当にチビッたことがあるのは内緒)必死でクロールしている。

他にもっと良い作戦があれば、いや他にもっと良い居場所があればすぐにでもそちらになびきたいのはやまやまだが、マリー曰く人魚の腹から出てきた人間と母親でもないのに何故か過保護にその人間に寄り添うほぼ人型の人魚なんていう得体の知れない二人組が行けるところ、出来ることなんてたかが知れているそうだ。

まあ、元いたあの場所よりかはずっとマシだけれども、それでも「生活する」ということがこんなにも大変なことだなんて想像だにしなかった。

やっぱり僕は世間知らずなのかもしれない。

安住の地が欲しい。

誰にも指さされず、白い目で見られず、マリーと二人静かに暮らせる場所。そんなところに行きたい。

あと昼過ぎまでぐっすり眠ってみたい。

毎日まだ星が瞬いて月が上っている時間に叩き起こされては苦役に勤しまされたり鮫や賊の襲撃から逃げたりする生活も勘弁だ。

あとついでに僕だけ心地よいのも駄目だ。

マリーにだってゆっくりたっぷり惰眠を貪れる、いわば誇り高き愚行権をいつでも行使させてあげたい。

マリーと出会って一緒に旅をするようになってから今まで、マリーが寝ている姿を一度として見たことがない。

ある時、不思議に思って「人魚って不眠不休でも動けるの?」とマリーに聞いたら「そんな訳ないでしょ。馬鹿なの?」と理不尽に怒られたことがあるが、とどのつまりは僕の為を思ってかなり無理をしてくれているということをその段になってようやく理解したくらいマリーと休暇という概念は結びつかない。





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