第4話

「あのジジイ、死ねばいいのに」

「そうだね。でもあの年で毎日あれだけ飲んでたらもう近いうちに…」

「違うわ。この戦いで死ねばいいのに、って言ってるの。無惨に鮫に食われてね」

「あんな酒くさくて肉も固そうな爺さんなんか犬も食わない…いや鮫も食わないよ」

「そんなことないわ。鮫の肉を食ったことのある人間なら奴らは選り好みせずに食らいつくわ。老若男女なんて関係なくね」

「でも僕、爺さん婆さんが食われてるところなんて見たことないぜ?」

「あら本当?ならラッキーね。きっと今日初めて見られるわ」

そんなもん別に見たかねえよ、と言いかけてふとマリーのその口調がなにやら予言めいていて断定的な響きを含んでいることに気がついて思わずギョッとした。

ひょっとして何か良からぬことでも企んでいるのだろうか。

例えばどさくさに紛れてあの爺さんを海に突き落とすとか。

でもそんなことをしたら最後、この世に居場所がなくなると思うんだが…。

人を殺した人魚の噂なんてすぐ広まるというのに。

そんなこんな相棒に対する懸念と疑念を募らせながら早歩きで三分。埠頭の端に着いた。

敵からも味方からも見えやすい僕らの定位置。そして僕らの作戦はこうだ。

鮫は何よりも優先して人魚を襲う。次点で鮫の肉を食って異能を得た人間を襲う。

襲われないのは人魚の肉しか食ったことがない多少御長寿な人間と、人魚の肉も鮫の肉も食ったことがない普通の人間、そして鮫の肉を食って異能を得た人間を共喰いして更なる力を得てもはや人外と化した獣たち…と一般には知られている。

ただし何事にも例外はある。それが僕だ。

人魚はメス(女)しかいない。

繁殖するには人間のオス(男)と交雑しなければならないが、結果生まれてくるのは決まって人魚(女)になるので人魚のオス(男)は事実上いないとされている。

だが極稀に人魚の腹から人間のオスが生まれてくることがある。それが僕だ。

エラも水かきも付いていないし、下半身もちゃんと人間仕様にはなっているが普通の人間と違うのは鮫から人魚よりも優先して襲われるということだ。

つまり鮫を食った人間<人魚<僕だ。




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