第39話 一応の和解
先日、アルバイト先で起こった例の事件。乙葉と京華はその黒幕が同じクラスの三人組であることを既に察していたが、二人は彼女達への追及を未だにしていない。京華の方は翌日にでも突撃しようとしていたが、それを制する者がいた。
以前にも、何らかの方法で三人組を牽制していた生徒会長だ。悠馬はどこからか話を聞きつけてきたらしく、自ら汚れ仕事を買って出る。その手段は秘匿だったが、対象の三人にお灸を据えてくれるという話だった。
この提案に京華は不服な様子だったが、一方の乙葉は親友に本来の目的と逆のことはさせたくない。なんとか説得すると、悠馬に全てを丸投げしていた。
それ以降——例の三人組は日を追うごとに、目に見えてやつれてきていた。二人ともその異変には気づいていたが、わざわざそれを気にする謂れもない。これまで、完全に無視してきていた。
ただ、今頃になって、こうして向こうから接近してきた理由はなんなのか。それが乙葉にも京華にも分からなかったため、一緒になって身構えようとしていた。
だが——
「——ちょ! そんなに構えないでよ! あたしら……もう、そっちと揉め事起こす気なんて、全くないんだからさ!」
リーダー格の女子が慌てて場を収めようとしている。その意外な反応に、京華も思わず緊張感を解いていた。
「……どういう意味だ?」
同時に胡乱な目で聞くと、その女子は視線を泳がしながら独白する。
「……あいつが裏でどんな手を回してるのか、聞いてないのかよ……」
『?』
その様子に乙葉も一緒になって首を傾げていると、相手は一つ溜息をついてから語っていた。
「……まぁ、いいけどさ。とにかく……あんたらに手を出そうとすると、ここの生徒会長がうるさいんだよ。理由はよく知らないけど……」
『!』
「なんにしても……これ以上無駄にいがみ合っても、お互いに損するだけでしょ? だから……この辺で手打ちにしない?」
その提案に——
「……!」
一方の乙葉は、これ以上の無駄なトラブルが避けられると判断。思わず好反応を示していたが、京華の方は納得していない様子だった。
「なんか、そっちに都合が良過ぎないか? そっちから先に手を出して来たんだぞ。俺の記憶違いか? んん?」
このケンカ腰に——
『——!』
女子三人組が緊張感を高めている。それ以上の事態に発展する気配は今のところなかったが、一方の乙葉は慌てて口を挟んでいた。
「——京華! そこまで!」
「……!」
その一喝で親友が押し黙る中、ここからは乙葉が少し強引に場を主導する。
「とにかく、これ以上は……お互いに不干渉。そういう……理解でいいんですか?」
慎重に言葉を選びながら聞いていると、その意図を理解したリーダー格の女子がすぐに頷いていた。
「……ああ。あんたの方とは、話が通じそうで助かるよ……」
その言葉に、他の二名も同調して小さく頷いている。そこには、確かにこの三人組の本音が垣間見えた。どうやら、ここでお互いに手を引けば、入学式から続いてきた懸案事項が解決できるようだ。乙葉には京華のために静かな環境を作るという最大の目的があるため、この方向性に異論はなかった。
「……分かりました。では、これで冷戦は終了ということで」
本音を言えば、乙葉も内心にわだかまりがない訳ではなかったが、ここは大人の判断をする。だが、一方の京華はまだ渋っていた。
「甘いような気がするけどな……バイト先にも迷惑掛けてるんだし」
その言及も、確かに正論だ。それでも乙葉はここで手打ちにする方が賢明だと理解しており、親友を鋭い視線で制していた。
それを見て、京華も不承不承に認める。
「……分かったよ。これ以上は、いがみ合わない。了解した」
この返事に三人組が一様に安堵の表情を見せると、リーダー格の女子は相手の気が変わらないうちに、最重要の案件を伝えていた。
「……じゃあ、そういうことで。生徒会長には、今も続いてるアレをすぐに止めるように言っておいてくれ。今日中に、だ。頼んだからな」
それだけ言い残すと、他の二人と共に、この場から離れる。そんな様子を乙葉が無言で見つめる中、一方の京華は最後の要望に小さな苦笑をしていた。
「……あの人、いったい何やらかしてるんだ……?」
「……深く考えない方がいいと思うけど……」
乙葉も少しだけ想像してみたが、あの三人の様を思い出すと、正答には辿り着かない方がいいような気もする。そのため、これ以降はこの件について、あまり気にしないようにしていた。
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