第37話 贖罪の行方
マリーに店から連れ出された男二人が、その後、結局どうなったのか。乙葉と京華には、最後まで分からなかった。しばらくして店内へと戻って来た店長の顔には、明確に返り血を拭った痕跡がある。それを見た二人は、追及すること自体を即座に忘却の彼方へと捨てていた。
ただ、なんにしても、今回のことは警察沙汰にはしないらしい。既に水城浦家の方へも事のあらましが伝わっているようで、そちらで独自の対処をするようだ。あの男二人にこのあと何が待ち受けているのかは定かでなかったが、ここに顔を見せることは、もう二度とないはずだった。
もっとも、一連の騒動でマリーはこれ以上の営業が困難と判断し、今日は完全に店仕舞いとしている。いつもの常連客が何人か顔を見せていたが、店長に事情を聞くと、すぐに諦めて帰っていった。
それが——
乙葉の責任感を充分に刺激していた。
「あの……店長……すいませんでした!」
「……!」
このいきなりの謝罪に、隣の京華が驚いている。ただ、その理由には見当がついたため、神妙な面持ちで店長へと向き直っていた。
もっとも、マリーには意味が分からない。
「……どうしたの? 私には、あなたが謝る理由が分からないんだけど?」
すると、乙葉は深刻そうな顔を保ちながら、素直に事情を話していた。
「……今日の騒動……多分……いえ、全部私達が要因になっているんです……」
「!」
その告白に店長が驚く中、京華も続く。
「それに関しては……確かに、事実だと思います。お——私達がここでバイトすることにならなければ、こんなことには……」
「だから……すいませんでした……!」
が——
一方のマリーは呆れた様子で、その全てを吹き飛ばしていた。
「……何をバカなことを」
『——ッ!』
「悪いのは、全部あの男達でしょ? どういう裏事情があるのか知らないけど、あなた達が全てを背負ってどうするの? 特に……乙葉ちゃんの方」
この指摘に——
「——!」
当の乙葉は動揺が隠せない。それを見て、マリーは今日の少女の様子を思い出しながら語っていた。
「ここに来た時からも、何か思い詰めてたようだけど……この世の中には、許されないことなんてないんだからね。ちゃんと贖罪の念があるのなら」
「マリーさん……」
「誰かに何かの負い目があるのなら、いつかちゃんとその埋め合わせをしましょう。そのことを忘れなければ、何も問題はないわ」
「……はい……」
乙葉は素直にそう呟いて俯く。それを隣で見ていた京華は、事情が分からずとも、納得したように何度も小さく頷いていた。
すると、ここで急にマリーが話題を変える。
「さて……そういう込み入った話は横に置いといて。ここからは、先の話をしましょうか。実は、明日から色々と新商品を開発してみたくてね」
『!』
あまりにも急な展開に、二人が思わず硬直していたが、一方の店長は気にせず厨房に向けて歩き出す。そして、途中で一旦立ち止まると、振り返りながら聞いていた。
「……その準備、もちろん手伝ってくれるわよね?」
この確認の直後——
乙葉と京華は、今日一番の明朗な声で快諾していた。
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