第17話 唐突に生徒会長

 そこにいたのは——

「……何やら騒々しいと思ったら……いつもの若宮君か」


 長身に爽やかな笑顔を張り付けた優男だった。ただ、その好意的な表情が、どこか胡散臭くも見える。状況から鑑みるに、この人物も上級生だろう。また、どこかで見た覚えもある。その素性を乙葉も京華も直近の記憶から探っていると、ここで風香が解答を口にしていた。


「会長……!」

『!』

 その単語に、乙葉と京華が小さく驚いている。ようやく思い出したのだが、先程あった入学式の祝辞の時にも見た、この学園の生徒会長本人だった。その時は遠目であったため、二人ともすぐには気づかなかったようだ。なんにせよ、一方の風香は急に乱入してきた相手に思わず詰め寄っていた。


「止めないでください! この新入生だけは、ここでしっかりと意識を変えておかないといけません! それが風紀委員としての務めです!」

「君の意見も分かるが……」

 生徒会長は、そこで一度小さく咳払い。次いで、爽やかな笑みを保ったまま、意外な発言をしていた。


「……まだ、入学初日だ。いきなり君の指導はキツいだろう。ここは……私に任せてもらえないだろうか?」

『!』

 乙葉と京華がその思いもよらない提案に閉口していると、風香が怪訝そうに確認をする。


「……会長が……直々に?」

「単なる気紛れだよ。ちょっと新入生の本音と膝を突き合わせてみたくなってね。これは、いい機会だ。ついでに、彼女の指導もしておこうじゃないか。それでダメなら、君の方でこの件を処理してくれて構わない」


 これを聞いて——

 一方の風香は、渋々といった様子で矛を収めていた。

「……会長が、そう仰るのなら……」

『!』

 乙葉と京華がこの急な展開になおも閉口していると、生徒会長はさらに場を主導する。


「では、そういうことで。あとは任せたまえ」

「はい……」

 風香は小さく頷いていたが、それでも釈然としない様子だ。だが、そこで素直に踵を返すと、そのまま廊下の先に消える。乙葉と京華が唐突に巻き込まれた嵐は、あっという間に過ぎ去っていた。


 次いで、しばらくの沈黙があったが——

「……あの——」

 と、乙葉が何か言い掛けたところで、生徒会長が聞き捨てならない発言をする。

「——さて、水城浦京華君と和泉乙葉君だったね」


 それを聞いて——

『——⁉』

 乙葉も京華も敏感な反応をしていた。これが初対面のはずなのに、向こうはもうこちらの素性を知っているようだ。普通であれば警戒するところだが、二人ともすぐ何かに気づいていた。


 生徒会長が続ける。

「……事情の方は、そこそこ聞いている。ここでの立ち話も都合が悪かろう。生徒会室の方まで来るといい」


 やはり——

『——ッ!』

 晶乃が裏から手を回していたようだ。乙葉も漠然とは聞いていたが、どうやら、この人物は味方らしい。だが、どこまで二人の事情を知っているのか。その確認だけは、ちゃんとしておかないといけない。そんな理由から、乙葉と京華は無言で頷き合い、相手の提案にとりあえず乗ることにしていた。


 ただ、ここで生徒会長が向き直る。

「あ、その前に水城浦君の方は、ちゃんと身なりを整えたまえ。そのままだと、次の言い訳が難しくなる。若宮君は……結構、粘り腰の性分でね」

「!」


 それを聞いて、京華が何ともいえない表情になっていた。だが、その指示には素直に従っている。一方の乙葉は全く関係がなかったが、思わず自らも身なりを確認している状態だった。


 やがて、そこに模範的な女子生徒二名が誕生する。それを確認してから、生徒会長は二人を先導して歩き始めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る