Episode_02
そんな『観察』ばかりしていた私が、好印象の彼女の連絡先も訊けぬまま、というのは察するに当然かもしれない。にも関わらず、天は思いがけない縁結びをしたらしかった。連絡先を交換することもなかった彼女、美奈は友人を頼り、私に連絡をよこしてきた。
―――良かったら一度、会えませんか?
そう画面越しに来たメッセージに、私は一度躊躇った。
「どうして私なんですか?」
その後、喫茶店で会う約束をして顔を合わせた際に彼女にそう尋ねると、彼女はセミロングの綺麗な髪を耳に掛けてから、手元に置いていたメモ帳の紙に、ペンで走り書きした。目の前に差し出された紙に書かれた文を見て、私は思わず彼女を見返す。
―――笑顔が素敵だったから。
化粧に頼ることのないその美しい笑顔は、今でも思い出として強く残っている。
聞けばやはり私同様、積極的ではなかったという彼女は、あの合コンの席で、私の交換先を知りたいと思いつつ、声もかけることも出来ずに解散したのだという。意外だったが、それでも似たもの同士ですね、と笑い合った私達は、やがてデートの約束をした。手話する方が楽だという彼女の為に図書館で借りてきた手話の本を読み、メモ帳なしでも彼女の言いたいことが理解できるようになるべく、特訓を重ねたものだった。手話が滑らかに分かるようになると、彼女との会話は楽しいものだった。じわじわと交際して分かったことは、仕事の合間にはコンビニのサンドイッチを食べること。合間の休憩デザートに最近シュークリームにハマっていること。
「え?ネイル?」
『まさか…知らないの?』
私の自宅の部屋に招いた際に、彼女が持って来ていたマニキュアの道具を見て、思わず「マニキュア」「ネイル」という言葉をポカンと訊き返した私。それを聞いて、彼女はビックリした様に目を丸くした。
素早い動きで驚いたように手話をして見せた彼女は手でそう言った。
『女の子なら、ほとんど皆やるんだよ?』
背中のクッションにもたれて、私は苦笑した。
「母さん、早くに亡くなってさ。学校も男子校だったから…そういうの疎いんだよ」
彼女は私の内情に、一度申し訳なさそうに『そうだったんだ』と手話を見せた。そのうち、じゃぁ、と私にすり寄る。
『私の指、実験台にしてみる?』
彼女は手早い手話の後、ミルクティー色のマニキュアの筆を私の手に握らせ、掴んだその拳を自分の爪に当てたが、私は「いいよ…!」と拒んだ。軽く不満げに押しのけたことで彼女の顔色は少し落ち込んだように見えた。
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