第19話◉普段はそんなもん

19話

◉普段はそんなもん


「思い返してみれば工藤さんという強面の人もかなりの打ち手でした。彼だけは南上さんに食らいついていましたね」

「あー、工藤ツヨシが来てたのか。家近いしな。あいつは元プロだ」

「プロ…」

「裏プロとかじゃねえぞ?れっきとした競技麻雀プロだったんだ」

「こう言ったらアレだけど、似合ってませんね」

「だから辞めてるじゃねえか」

「そうか」

「見た目の豪快さに惑わされますけど工藤さんはかなり繊細な麻雀してましたね。おれとは大違いでした」

「えてしてそういうもんさ、麻雀ってのは。豪快そうな奴ほど繊細で、繊細そうな奴が意外と思い切った麻雀をしたりする」

「確かに、おれもそれに当てはまりますね」


ーーーーー


「さて、それじゃあこれが今日の分だ。お疲れ様」

 渡邉さんは8000円を入れた封筒をおれに差し出した。

「すいません、わざわざ封筒に…。次からは裸でいいですよ」

「そうはいかない。きみというプロに失礼だろ」

(そういうものか。プロ、ね)


「メールでも知らせたけど、明日の行き先は津田沼の『よう』だから、明日も頑張って」

「はい!」


 給料を受け取るとコーヒーをズズッと最後まで飲み干した。

「ごちそうさまでした!」

「おう、じゃあ明日も10時から頼んだぞー!」

「任せてください、それでは!」

「お疲れ様」

「お疲れ様でした」


 椎名はそう言って店を出ると津田沼周辺のメシ屋を検索した。

(明日は抜けれたらなにを食べに行こうかなー)とか考えてた。そんな感じでのんきに派遣の仕事を楽しんだ。職業闇メンとか言っても、卓を抜ければただの若者だ。普段はそんなもんである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る