第20話◉お仕置き

20話

◉お仕置き


 津田沼の『陽』では何度も依頼されていて椎名は既にお客さんの名前や雀風も把握していた。

 この日、下家は横田さん(78)上家は小野寺さん(72)という高齢者卓だった。対面は新人メンバーの上籠ユキオ。

 現在小野寺さんの親番で椎名が3を捨てた。

 その3を見て横田さんは止まる。考え込んでいる。鳴くか、否か。すると。

「ポン」

 明らかなジャマポンが入る。小野寺さんだ。横田さんは確かに発声してないから横取りされても文句を言うことは出来ない。出来ないが、優しくない。そしてツモの順番が変わった直後に椎名にテンパイが入る。


二四五五六六七七④⑤⑥⑥⑥6


 三は2枚切れ。本来ならテンパイ取らずでいい手だが、今回はこれをリーチ。これが椎名の持ち技の1つ『お仕置きリーチ』だ。

 意地悪なジャマポンなんかした結果リーチされたら鳴いた本人も失敗したと感じるし、他の2人も(いらないことするから!)という視線でブーイングをいれがちになる。

 これでもしツモでも決めようものなら(次からはジャマポンはやめとこう)という気持ちが湧く。本来はルール違反でもなんでもないのに。それをやったら良い結果にならないという経験をすることでジャマポンする人が減っていき優しいグループになっていくのだ。

 そして当然だが、優しい麻雀はカモにされる。

 お仕置きは平和を守るためにやるのではない。自分が勝ちやすいグループを作るために相手の思考回路すら調整する。それが仕事で麻雀をする打ち手ということなのだ。



「ツモ!」


二四五五六六七七④⑤⑥⑥⑥ 三ツモ


「裏裏で3000.6000の2枚!」


 このアガリで津田沼の『陽』は完全に椎名に支配されたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る