第11話◉初仕事

11話

◉初仕事


 最初の仕事場は勝田台の『龍』という店だった。そこのマスターにだけおれの顔を教えていて後のスタッフは全員闇メンの存在を知らないという。

 出勤は10時から。抜けて欲しい時はマスターがコーラを出すからその時はラスハンコールしてくれと言う事だった。

 初出勤する前に渡邉さんからメールでその日の行き先になっている店のルールが送られてくる。闇メンはそれをよく読んでしっかり理解してから向かう。ルール説明を受けてたら時間が勿体ないから。闇メンを雇うのは高額とまでは言わないが決して安くもない。なのでルール説明くらい飛ばしてあげるべきなのだ。え?おれの給料は時給で1000円だったじゃないかって?そりゃそうだよ。間に会社が挟まってるんだから、依頼人は例えば時間1500円で闇メンを雇うとする。それが全額闇メンに行ったら会社の利益ないだろ。

 つまり、おれに1時間1000円支払っても会社はしっかり利益が上がるような仕組みだと言うことだ。そうなると何となくだが、闇メン依頼は高額ということが分かると思う。

 よって闇メンには高度なクオリティを求められるのは当然だった。


ーーーーー


『龍』に到着した。


 今到着した事を渡邉さんにメールで報告して入店。


カランコロン


「いらっしゃいませ!四名様ですか?」

これは椎名がいつも言われることだった。若い椎名がフリーで打ちに来た猛者客には見えず、仲間たちとワイワイやる麻雀、いわゆるセットのお客さんだと思ってしまうのだ。

「いえ、フリーで」

「それではルール説明から入らせていただきます。そちらの卓へご移動下さい」

「いえ、ルールは調べてから来ましたので大丈夫です。ホームページの情報にないルールがあるなら知りたいですが」

「あ、そうですか!ありがとうございます。それならすぐ出来ますね」


 待ち席で雑誌を読んでた人を誘って『店長』と呼ばれる人と店員の『左座』という名札を下げた人とおれとで卓を立てる。左座…なんて読むんだろう。名札にはふりがながふってあるが小さいし文字も薄くなってて読めない。


 少し顔を近づけて読もうとするおれに『左座』さんは気付いた。


「あ、『ぞうざ』と読みます。よろしくお願いします」

「椎名です。よろしくお願いします」


 こうして闇メンとしての初仕事が始まったが気になっていたのはおれの正体を唯一知っているという話の『マスター』がいない事。そして、待ち席で雑誌を読んで待っていた人の爪が異様にきれいだったということ。それだけが、少し気になっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る