SCENE-003 >> 入学式(後)

 入学式が終わると、私たち新入生は講堂から歩いて十分ほどの場所にある教室棟へと案内された。


「今日から三年間、ここがあなたたちのホームルームです」

 集団の先頭を歩いていた教導官に促され、開け放たれた扉をくぐると。初等学舎のものと代わり映えしない『教室』には、私たちくらいの子供なら詰めて座れば三人でも使えそうな長机と背もたれのないベンチが、教壇と黒板に向かって横二列、縦に五列並んでいて。前から四列目までの机の両端には、分厚い本が山と積み上げられている。

「点呼を兼ねて一人ずつ名前を呼ぶので、前から詰めて座るように」

 教壇に上がった教導官が最初に呼んだのは、アメルの名前だった。


「アメル・カディミラ」

 はい、と余所行きの声で返事をしたアメルが一番前、黒板に向かって左端の席に着く。

「次、ルーラ・カディミラ」

 次に呼ばれたのが自分の名前でよかったと、私は胸を撫で下ろした。

「――はい」


 机と机の間を通り抜け、積み上げられた〝一人分の教科書の山〟を目印に、アメルと同じ机、同じベンチの片端に座ったところで、ほっと息を吐く。

「次、サディーク・エリドゥ」

「はい」

 名前を呼ばれる順番は入学式の時と変わらないようで。通路を挟んで隣の席には、入学式の間も隣に座っていた、見覚えのある少年がやってきた。


 ちらっ、と向けた視線ににこっ、と愛想良く返されて。思わずアメルの方に寄せた体を押し返される。

「次――」

 私の反応に目をぱちくりとさせた同級生――サディーク・エリドゥ――の視線と興味は、自分の次に呼ばれた同級生の方へと、すぐに流れていった。




 不躾というほどではないけれど、遠慮のない視線が逸れたことに二度目の息を吐いて。目の前に積み上がった本の山へと手を伸ばす。

 ……『学生生活のしおり』、『魔法論』、『共通呪文集』、『力あることば』、『魔術構築例題集』、『召喚契約術入門』、『魔導読本』、『魔法士の心得』、『魔法薬の基礎』、『魔法薬学事典』、『魔法史』……。

 上から一冊ずつ、タイトルを確認していくと。机の上に積まれていた本のうちいくつかは、既に読んだことのあるものだった。

 ……まぁ、そういうこともあるわよね。

 魔法を実践的に学べる場所が教導院以外に存在しないからといって、魔法に関する知識そのものが秘匿されているわけではないから。授業のためだけに作られてまったく流通していない教本というわけでもなければ、街の本屋や図書館で見かけたとしてもおかしなことはないわけで。


 この中でまず読むならこれだろうと、手元に引き寄せた『学生生活のしおり』を開く。

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夜明けの天命/竜の黄昏 葉月+(まいかぜ) @dohid

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