第218話池田商事役員会①

数日後、圭太は、池田商事役員会への「出席招請」を受け、池田商事に出向くことにした。

銀座監査法人役員とも、充分に相談した上での決断だった。


会長杉村忠夫は、圭太の判断を是とした。

「確かに、決着をつける、その意味で、になるな」

「厳しい決断にはなるが、待たせ過ぎるのも、酷だ」

「私も出席する、会長として」


圭太は、会長出席の申し出には「遠慮」を申し上げた。

「私一人で、充分です、ご迷惑は、かけられません」


専務高橋美津子が、「どうしても私も」と出席を主張した。

「圭太君は強いから、杞憂に終わることもわかっています」

「しかし、銀座監査法人役員として、一言申し上げたいこともあります」


圭太も、そこまで言われては、仕方がなかった。

結局、会長、専務がオブザーバー参加として、池田商事役員会に出席することになった。

(ただ、会長車に乗るのは、固辞した、メトロで池田商事に向かった)


圭太は、いつもの静かな顏で、池田商事のビルに入った。

ただ、迎える社員の表情が、いつも(かつて、が正しいかもしれない)と違う。

笑顔も多い、不安な顔も多い、実に様々になっている。

(池田商事社員時代は、全く見向きもされなかった)

(特に軽い女子は、エースの鈴木に黄色い声をあげていた)


少し歩くと、佐藤絵里と山本美紀が小走りに来た。

(二人とも、目が潤んでいる)

佐藤絵里

「ご結婚なされたとか、おめでとうございます」

山本美紀は、涙で化粧も崩れている。

「圭太さん・・・あの・・・ごめんなさい・・・」


圭太は、その二人は、少し目を合わせただけ、表情は変えない。

すぐに、目を伏せて通り過ぎた。


また、少し歩くと、今日の役員会で司会を務める総務部長川崎重行が、会長付け秘書山田加奈と歩いて来た。


総務部長川崎重行は、圭太に深くお辞儀。

「本日は、誠にありがとうございます」

圭太は、その総務部長川崎重行に耳打ち「基本的には、手順通りに、やや厳しくなります」


総務部長川崎重行が、真剣な顏で頷くと、会長付け秘書の山田加奈が圭太に頭を下げた。

「会長室で、光子様がお待ちです」

「それから、銀座監査法人の杉村会長と高橋専務も、既に御到着なされて、会長室に」

「ご案内いたします」


圭太は、頷いた。

「自分で行きます、見覚えがあるので」


山田加奈は抵抗した。

「私の仕事です、お任せを」

少し歩いて、山田加奈が一言。

「いろいろ、ありがとうございました」

圭太は、少し笑った。

「何のことです?」

「でも、元気そうでよかった」

山田加奈も、この言葉で潤んでいる。


圭太は、会長室に入った。

杉村会長と高橋専務に、一礼。

そのまま、池田光子会長代理に、名刺を渡す。

「銀座監査法人第一監査部課長代理 田中圭太です」


池田光子は、圭太から「事前に役員会での発言要旨」を聞いているので、やわらかな顏。

「圭太君、ありがとう、本当に」

「それから、関根大臣からも、話がありました」

「本当に、腰が抜けるほどで」

「とても、迷惑かけられない」


圭太は、池田光子の手を握った。

「自分の決断、判断を言うまでです」

「誰に左右されることもなく」


会長室のドアにノック音。

総務部長川崎重行が入って来た。

「そろそろ役員会開始です」

「会議室にお越しください」


圭太は、いつもより、冷めた顏になっている。

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