第217話圭太に昇格辞令
現財務大臣関根昇と会食した翌日、圭太は通常の監査業務を行っている。
私、紀子が見る限り、圭太の表情には、何の変化もない。
ただ、万年筆が、かなり年代物の「新品」。
気になったので、椅子をスッと近づけて、聞いた。
「万年筆変えたの?」
圭太は、苦笑い。
「まだ、ガチガチ、良くなると手離せないかもな」
「いつになるやら」
午前10時、その圭太が会長室に呼ばれた。
少しして、いつもの「何食わぬ顔」で、帰って来た。
でも、一枚の紙を持っていた。
苦虫をかみつぶしたような顏で、座った。
「何だかな・・・いいのかな」
珍しく声に出すものだから、突っ込んだ。
「何よ!ハッキリ言いなさいよ」
「それでなくても、昨日の夜の大臣との話も気になっているんだから!」
しかし、圭太は、私の追及をサラリとかわした。
そのまま、鈴木部長と五十嵐課長に、紙を持って「ご挨拶」らしきもの。
拍手までされているし・・・
ようやく帰って来た。
私は、圭太の足を踏んであげた。
「だから何!部長と課長には言えて、私には言えないこと?」
「そんなアヤシイ話?」(・・・アヤシイ話は、余計だった)
そこまで言って、圭太はようやく「紙」を見せた。
「田中圭太 第一監査部課長代理を命ず 銀座監査法人会長杉村忠夫」
の、昇格辞令だった。
私は、うれしかった。
(君の実力が認められた!お祝いもしたくなった)
だから「おめでとう!」のハグ・・・できなかった。
(芳香ちゃんに、ぶっとばされるから)
・・・ところが、圭太は「やはり圭太」だった。
「河合紀子君の上司になった」
(おいーーー!ここでマウント?このアホ!)
「河合紀子君の職務状況も、査定する」
(ごめん・・・おとなしくします)
ついでに説明があった。
「万年筆は関根さんから」(現職財務大臣を、そう言う?)
「でも、里中寛治じいさんの物だから、遺品分けみたいなもの」(また時代を感じさせるなあ・・・昭和だ)
緊張が切れたので、聞いた。
「芳香ちゃんには言ったの?」
圭太は首を横に振った。(だから、ボケなの、こいつ)
「勤務先の内部情報に過ぎない」
(嫁は旦那が出世すると、うれしい)
(それを、全くわかっていないのが、この能面ボケ男)
私は、この無神経な圭太に言っても仕方ないと思った。
芳香ちゃんと、佐藤由紀にメッセージを送った。
「お昼を一緒に」(すぐに了解しました、の返信有り)
追加で佐藤由紀に「ケーキを4つ、買って来て」と送った。
佐藤由紀は社内情報で「知った」らしい。
「はい!お任せください!」の返信が来た。
お昼になった。
珍しく4人お昼になって、圭太は慌てている。
(まだ事態を理解していない)
その圭太を芳香ちゃんが、ブンと肩で弾いた。
「圭太さん!しっかり!」
(いい嫁だ!もっとやってもいい!)
圭太は、ようやく気付いた。(みんなのお祝いの気持ちを)
「ああ・・・なんか・・・突然昇格になった、みんなのおかげで」
「ありがとうございます」(・・・世話焼ける)
芳香ちゃんも、頭を下げた。
「主人をよろしくお願いいたします」
(複雑だけど・・・強い嫁だし)
全員がお弁当を食べ終えた時点で、圭太から話があった。
「池田商事のことと、池田家のことは、間もなく決着をつける」
「みんなには、心配をかけるかもしれない」
「でも、決めたことは変えない」
少し間があった。
「戻らない、でも、光子さんは、守る」
「その方向で、動く」
「俺は、ここで生きる」
どういうわけか、女子3人の目が潤んでいる。
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