第216話関根昇は圭太を想う   圭太は「池田」の今後を考える。

関根昇は、圭太と芳香を見送り、女将、秘書(田辺)と、軽く酒を飲んでいる。


関根昇は、少し笑う。

「あっさり帰った、それがいいな」


女将は、驚いている。

「政治家先生も、お役人の方、会社の方は、もっとベタベタに粘りますよね」

「関根先生の恩恵を欲しがって」


田辺秘書も笑っている。

「早いですね、と言ったら、明日も監査業務ですからと」

「ただのお食事会としか、思っていないようでした」


関根昇は、真面目な顏になった。(饒舌になった)

「俺は、いろんな政治家、役人、後援会、学者、マスコミと付き合って来た」

「悪意を秘めた奴とも、何度も、時には喧嘩腰に渡り合った」

「ただ、圭太君は・・・話していて・・・少しの時間だったが」

「話の底が深い、こっちに考えさせるから、面白い」

「悪意はないが、間違いは遠回しに言う、遠慮したのかな」

「だから、もっと話をしたくなる、ハッとすることも多い」

「寛治叔父は剛直で、圭太君は似ている・・・でも、少々変化球も投げて来る」

「従姉の律子姉さんの子・・・大切にしたいと思っていたけれど、それ以上だ」


「杉村さんの話では、厳しい時は、本当に厳しいとか」

「でも、後先を考えての指摘」

「この前は日本の今後も踏まえ、賢い監査意見だ」

「何十万の人を救い、兆にも届く日本の金を守った」


女将が関根の盃に酒を注いだ。

「私は、里中寛治さんとも、田中圭三さんにも可愛がられて」」

「だから、圭太さんのお力になりたいなあと」


関根昇は、首を横に振った。

「政治家なんて、汚い仕事はさせられないよ」

「監査がいい、圭太君は、天職だよ」


田辺秘書は、関根昇の目の輝きが増していることが、うれしい。

「また、呼びましょうか?」


関根昇は、やわらかい顏になった。

「呼んで話をしたい、でもな、今は言えないよ」

「新婚夫婦を大事に、子供も見たいな」

「それも、俺の楽しみだから」


料亭では、珍しく「ほのぼの」とした話が続いていた。



月島の家に戻った圭太は、ノートを手に机に向かっていた。

(重大な問題の時は、ノートにいろいろ書き込みながら、整理しながら考えるのが、圭太の癖である)


ノートが白地の段階で書き込まれたのが、「池田商事」だった。

続いて、「役員会出席の是非」。


圭太は、ノートに書きながら、考える。

「正式に文書で出席要請が来ればいいが」

「その場合は、文書で拒否する」

「招請は、光子さん一任らしいが、あまり長引かせると、光子さんの負担か」

「血縁かもしれない、しかし、法的には関係はない」

「そもそも、戻る理由は、何もない」

「放逐された娘の子であって、ただの血筋だけで将来まで縛られたくない」

「俺は、まず田中家、そして里中家の後継であって、祭祀を行う立場」

「母さんとのことで言えば、寛治じいさんと由美ばあさんの思いは強い」


圭太は、考えをまとめ始めた。

「結論的には、当分、何十年か、池田光子体制で行ってもらう」

「助言を求められたら・・・わかる範囲で、内緒で言うか」

「光子さんの後は、売却か合併も、あるいは経営状況がよければ、役員からでもいいか」

「創業家に執着する時代ではない」

「無理なことは無理、きれいに終わるなら、それでいい」


「池田家」については、口出しする気もない。

「光子さんが、誰かと養子縁組をするだけ」以外には浮かばない。

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