第209話圭太 政治家とは付き合いたくないが・・・

監査会場(大手建設会社ビル)でのお昼、私、紀子は、控室で、圭太と久しぶりに一緒だ。

圭太のお弁当(芳香ちゃん弁当)に合わせて、私もお弁当(ほぼ母が作った)を食べている。


その圭太のお弁当で、気になったのは、「がんもどき」だ。

(マジに美味しそうだから)

だから、おねだりしてみた。

(いい年をして?いや、食欲には勝てない)


「ねえ、圭太、がんもどき、少し欲しい」

圭太は、素直だ。

「あ、いいよ、取って」

(・・・間接キス完成!でも妻帯者なので背徳感チラリ)


食べてみた。

「うわ・・・甘辛に?」

(食をそそるし、後を引く)(さすが芳香ちゃんだ)

圭太は、素っ気ない。

「これが普通では?子供の時からそういうものだと」

(そうか、芳香ちゃんは、律子お母様の弟子か、それで圭太用に作ったのかな)


少しドキドキして聞いてみた。

「新婚生活はどうなの?」

圭太は、少し笑った。

「はい、順調に」(ここで、少し悔しいかな)

「芳香は、コマコマと良く動く」(うん、想像できる)

「下町の子だよ、俺もそうだけど」

(・・・それ、言われると・・・疎外感あるな)


圭太にフラれた(芳香ちゃんの旦那を選んだ)とはいえ、私は圭太が好きだ。

ずっと一緒にいたい、その気持ちは変わらない。

圭太が、銀座監査法人のトップを張ったら、専務になりたい。(高橋美津子さんのように)


関根昇さんの話を聞いてみた。

「大臣とは、何もないの?」

圭太は頷いた。

「まったく付き合いがないし、俺は、どうでもいいかな」

「父さんからも母さんからも聞いていない」

「その理由は知らない、それがわかるまでは、用心する」


それにしても、圭太は、実はすごい血筋と思う。

旧大蔵省の大幹部里中寛治と最大手都銀のドンの田中圭三の孫。

現財務大臣とも親戚、中堅とはいえ、名門の池田商事からは会長就任を期待されるほどの縁。(圭太は拒否しているが)

それを思うと、下町住まいと田園調布住まいの「住居格差」を気にして、私との時間外の付き合いを遠慮した圭太とは、「何ぞや」になるが・・・


圭太は、食べ終えて、話しだした。

(落ち着いて、やわらかな感じ)

「芳香と、平凡に、普通の下町の生活をしたい」

「おれも、芳香も、苦しい思いを抱えて生きて来た」

「つつましい幸せがあっても、いいかなと思う」

「裕福な暮らし、気取った暮らしは、おれたちには似合わない」


私は、少し動揺した。

田園調布住まいの自分を否定されたような気がしたから。


しかし、圭太はそうではなかった。

「紀子とは、仕事では付き合いたい」

「寛治じいさんとの縁がないわけではない、お前の母さんに抱っこされたらしいし」

「仕事では、信頼できる」

(・・・やばい・・・ホロッとなりそう)


間があった。

「一般に、政治家の親戚とか、面倒で嫌だ」

「応援して当たり前で、後援会名簿を集めるとか」

「親戚と聞いて、たかって来る輩も出て来るだろう」

「それで、距離を置きたいのが本音」


圭太の「本音」には、私も納得した。

確かに面倒だろうと思う。

特に、ようやく芳香と、普通の暮らしを始めた圭太には、酷でしかない。


圭太は続けた。(複雑な、苦しい顔になった)

「ただ、現財務大臣を考慮すれば・・・」

「寛治じいさんのことも・・・」


私は、「うん」としか返せなかった。

とにかく、圭太の顏が、重い悩みでも、抱えたような雰囲気であったから。

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