第207話杉村忠夫と関根昇 圭太と紀子は建設会社営業部を問い詰める。
銀座監査法人会長杉村忠夫と現財務大臣関根昇の話は、続く。
杉村忠夫は、酒をスコッチに変えた。
「圭太君は、とにかく頭が切れる」
「慎重で尻尾を出さない、相手を見極めるし、本音は、なかなか言わない」
「下手にからかうと、足元救われて酷い目を見るよ」
「程度の低い、ただ親戚だとかの、感情論は通じないよ」
関根昇も、同じスコッチに合わせた。
「ますます、面白いようですね」
「話をしてみたい」
杉村忠夫は、また釘を刺した。
「おい、圭太君は、まだ新婚だ」
「邪魔するな、もう少し待ってやれ」
関根昇が、驚いた顔になった。
「いや・・・何も知らず、申し訳ないことをした」
「また、寛治叔父に叱られる」
杉村忠夫は、複雑な顏になった。
「ずっと苦労し続けて、ようやく飯が食えるようになって」
「幸せになりつつあるんだ、今が大事だ」
「できれば、そっとしておいて欲しい」
「人としての情だよ、俺だって寛治さんの弟子で、田中圭三さんにはお世話になった」
関根昇は、スコッチが二杯目。
何かを考えているような顏になっている。
大手建設会社の監査二日目、圭太と紀子は、営業部長の小沢と営業コンサルタント高田を呼び出した。
圭太
「特に新木場の住宅団地は、全く問題ない物件とのご認識で、間違いないですか?」
営業部長小沢は胸を張った。
「当然です、我が社の販売する物件に、欠陥住宅などありえません」
「社員一同、社命をかけて、営業を推進しております」
営業コンサルタント高田は、派手なスーツで、にやけた顏。
「監査士さん、私も次の仕事があるんです、さっさと終わらせてください」
紀子は、現場視察時の写真を見せた。
「下請け業者の方でしょうか」
「煙草を吸いながら、足元には競馬新聞、それから弁当のゴミが散乱、隣家まで風に乗って飛んでいます」
「缶チューハイの空き缶も道路まで」
営業部長小沢は、紀子を馬鹿にしたような顏。
「監査士さん、それは下請けに指摘してください、あるいは施工管理部署に」
圭太は、冷ややかな顏。
「わかりました、基礎工事は、問い合わせて見ます」
「尚、近隣の住民から基礎工事が弱過ぎる、下請け工事人の態度が悪過ぎる、そんな苦情が寄せられていることはご存知ですか?」
「その近隣住民の中には、建築施工専門の学者、大手の他社の方もおられるようです」
「上手に対応しないと、近隣住民から行政の検査の是非を含めて裁判の可能性も否定できない」
「いやもう・・・動きがあるのかな、そうなると差し止めの可能性もあるのかな、それも確認してみます」
営業コンサルタント高田は、少し切れ気味。
「だから、何だって言うんですか?」
「営業は、何があろうと、会社から言われた商品を売るだけなんです」
「その販売実績が命です」
「どうして、その販売努力に水を差すようなことを言うのかな」
紀子は、営業会議での録音を再生した。
営業コンサルタント高田が、わめいていた。
「とにかく売れ!」
「欠陥だろうが、なんだろうが、お前らは売れ!」
「コンプライアンス?建築基準法?それが何だ!」
「お前らみたいなゴミは、成績だけが評価だ!」
「いいか!クビになりたくなかったら、騙してでも何でも売って来い!」
営業部長小沢の唇が震えた。
「この録音は・・・営業が勝手に録音したもので・・・私には責任がありません」
営業コンサルタント高田は、まだ小馬鹿にしたような顏。
「だから何?何か悪いことを言ったの?」
「当然のことを言ったまでだよ、何が悪いの?」
圭太は、それには答えなかった。
「今の録音、それから下請けの基礎工事の写真と動画は、既に御社の社長と役員に報告しました」
「尚、程度の悪い下請け業者は、暴力団関係と、近隣住民からの情報もあります」
「下手をすると、御社の看板を背負った工事は、反社会的勢力と関係をしている」
「御社のイメージどころか、世間に公表している、反社会的勢力拒絶方針にも違反します」
「それでも、あなた方は売るだけと」
圭太は、顏を見合わせるだけの営業部長小沢と営業コンサルタント高田に、反論の時間を与えなかった。
強い口調で言い切った。
「わかりました、その旨、御社の社長と会長の前で報告します」
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