第206話里中寛治(圭太の祖父)の甥 現財務大臣関根昇
銀座監査法人会長杉村忠夫は、午後6時に麻布の料亭に入った。
面会相手は、現財務大臣関根昇。(杉村忠夫の、大蔵省時代の後輩である)
関根昇は、先に来て待っていた。
杉村忠夫を見るなり、相好を崩した。
「先輩、お久しぶりです、本当にお逢いできてうれしい」
杉村忠夫は座椅子に座り、苦笑い。
「おい!金は出さないぞ、ただの監査人だ」
関根昇は、酒を杉村の盃に注ぐ。
「いや、選挙の話ではなくて、昔話を先輩としたいなあと」
杉村忠夫は、酒を少し飲み、おだやかに笑う。
「現職財務大臣と昔話とは・・・怖い気もするな」
現職財務大臣でも、先輩杉村忠夫には、頭が上がらないらしい。
苦笑いを浮かべている。
関根昇が、昔を懐かしむような顏。
「入省した当時、大親分が里中寛治でした」
「私は、その里中寛治の甥です」
「と言っても、妹が関根家に嫁いで、私はその長男」
「寛治叔父さんの関係で、大蔵省に入れてもらっただけ」
「政治家になったのも、寛治叔父の根回しもあって」
杉村忠夫も、ここに来て、相好を崩した。
「ああ、懐かしいなあ・・・お前が新人の時」
「あれは、酷いものだった」
「計算は間違うし、書類の順番もメチャクチャ」
「寛治さんも、呆れていた、入れるんじゃなかったと」
「その後、寛治さんが律儀にも、甥が申し訳ないと、謝って来るから、こっちも焦った」
関根昇は、真っ赤な顏で、酒を煽った。
「でも、うれしいですよ、先輩」
「いつも大臣、大臣っておだてられるばかり」
「その大臣が、新人時代は、お荷物官僚」
「杉村さんにも、叱られたなあ、それで身が引き締まった、ありがたかった」
「杉村さんがいなかったら、今の俺はないです」
杉村忠夫は、再び関根の盃に酒を注いだ。
「ところで昇、本当の用は何だ?」
「何となく、察しはつくが」
財務大臣関根昇が、真顔に戻った。
「ずっと探していた子の名前を耳にして」
「情けないけれど、見失っておりました」
杉村忠夫は、低い声になった。
「お前とは、どういう関係になるのか」
「彼は、里中寛治さんの孫」
「お前は里中寛治さんの、妹の子」
「で・・・どこから耳に入った?」
関根昇も、声を低くした。
「池田商事の役員と・・・そいつは飲み仲間で」
「それ以上に、幹事長からも」
「幹事長自身、かなり助かったとか」
「それに加えて、幹事長の後援会幹部の孫が、助けられたとか」
「その名前が、探していた子と同じ」
「先輩の会社にいますよね」
杉村忠夫は、再び関根の盃に酒を注ぎ、自分の盃には自分で注いだ。
「おい!欲しいと言っても、お前には、やらねえぞ」
「もちろん、池田にもな」
「あれは、俺の会社を任せたい」
「経験を積ませれば、もっとでかくて、上手い仕事をするようになる」
「見ていて、面白いよ」
関根昇は、笑って、盃を飲み干した。
「やはり、里中寛治の孫で、それと田中圭三の孫」
「その血でしょうか」
「キレキレで、それでいて、しっかり面倒を見る」
杉村忠夫は、その関根昇に、厳しい顔をした。
「おい!昇!お前はボンクラか?」
「田中圭太は、それだけの男ではないぞ」
「もう、とんでもない苦労を背負って来た」
「それを、全く掴んでいなかったのか?」
「親戚なんて言える身分か?」
「今さら、それを言って・・・」
(杉村忠夫は、圭太の父田中隆の死亡の原因、母律子の直葬をかいつまんで説明した)
財務大臣関根昇の顏が青くなった。
「それ・・・本当ですか?」
「全く付き合いがなくて・・・申し訳ない」
「気にかけていただけで・・・可哀想なことをした」
杉村忠夫は、圭太を思った。
「あてにならない親戚連中ばかりで・・・」
「だから、お前には、渡さない」
財務大臣関根昇は、杉村忠夫に深く頭を下げた。
「欲しいとは言いません、でも、もう、見失うことはしません」
「俺は、逢いたいんです、寛治叔父に言われているような気がします」
杉村忠夫は黙って、関根昇の盃に酒を注いだ。
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