第202話圭太は非情対応を貫く 女子たちの不思議なまとまり

圭太は、スマホの画面の、「池田家執事長川口久雄」を見て、少し考えた。

かつて「佐野好男」は着信拒否にした。

そもそも、電話に出る価値はないと判断していた男だったから。


ただ、「川口久雄」には、(特に接触もなかったこともあり)そこまでの否定的な判断はない。

しかし、そもそも、自分は、戸籍的には(法的には)、「池田家」と無関係である。

また、亡き母が池田家から、「無用」と放逐され(捨てられ)、その後の財産分与申し出も断って来た重い経緯がある。


結局、圭太は電話に出なかった。

「池田に、どんな理由があるにせよ、俺に出る義務はない」と結論付けた。

「電話に出るくらい、たいしたことはないのでは?」と思うし、「狭量に過ぎる」かもしれない。

ただ、「池田家」との関係は、せいぜい「光子さん限定」と思っているので、それ以上の対応を行わなかった。


芳香が感づいて、聞いて来たので、「池田家の執事長から」「無視した」「おそらく、ロクでもないこと」と伝えた。

(紀子と由紀も聞いていたけれど、気にしない)


すぐに「留守電」が入って来たので、その場で「再生」した。

執事長川口久雄の声が流れた。

「圭太様、会長がお逢いしたとのこと」

「病院になるべく早く、できれば今日中に、お越しください」


紀子が、呆れた声を出した。

「他社の人間を、電話一本で呼び出し?」

「なるべく早くって、圭太だって都合があるのに、それも聞かないって何なの?」


由紀も続く。

「圭太さん、池田家も池田商事も、酷過ぎるような感じ」

「マジに上から目線だと思うの」

「戻って当たり前、来て当たり前のような感じ」

「光子さんは、義理堅いけれど」


圭太自身、苦々しい思いしかない。

会長池田聡の気まぐれな性格、欲しいものは、その場で欲しいとねだる「子供そのもの」の性格を思えば、池田聡は「今日何となく」圭太に逢いたくなった、だから執事長に病院から電話をさせただけと判断した。

「華代さんのように、すぐにあの世に行く、そんな危険な状態でもない」

「ただ、その状態になったとしても、俺には逢う必要も義務も感じない」


ただ、自分を見つめて来る芳香、紀子、由紀の視線が気になったので、

「少し時間を空けて、丁重にお断りのメッセージを入れる」

「こんな連絡があったことを、光子夫人には伝えておく」


紀子は圭太の判断を是とした。

「とにかく圭太を無理やりにも池田商事に戻そう、そんな動きもあるから」

「圭太の気持ちなんて、何も考えていないよね」

「そんなの応じる必要がないよ」


由紀は、怒っている。

「下手に行ったら、池田商事の役員連中に囲まれて、強引に会長にさせられるよ」

「酷いよ、それ、圭太にも人権があるのに」


圭太は、その由紀の言葉に笑った。

「まあ、そうだよな、俺にも人権はある」

「こんな非情な人間としても」

(芳香が、横で、口を押えて笑っている)


紀子が、圭太の肩を叩いた。

「それよりも、例の違法建築のほうが問題」

「止めようよ、あれ」


圭太が頷くと、芳香が心配そうな顔。

「そんな問題が?」


圭太は、あわてて首を横に振る。

「いや、監査上の秘密」(口外はできないと、意思を示す)


しかし、芳香は引かない。

「もしかして、新木場の件では?」

「近所の住民が、危ないとか、心配されて来ましたので」

「大工さんの仕事ぶりと、基礎工事の手抜きが酷くて、大手の建設会社さんの案件」

「もし、違っていれば、ごめんなさい」


少し仲間外れになっていた由紀が芳香を見た。

「まずは人命優先と思うの」

「秘密保持は当然として、上手に連絡できないかな」

「ヤバい大工の場合、手下を使って恣意的に燃やして、保険金目当てもあるから」


女子たちが不思議なまとまりを示す間、圭太は光子夫人に連絡を取っている。

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