第201話池田家執事長川口が知る池田聡 その頼み
池田家執事長川口久雄は、光子夫人が池田商事に臨時会長代理として出勤するようになってから、会長池田聡の病室に、毎日見舞いに通っている。
川口久雄にとって、池田聡が小学生の時、池田家に仕えた時からの関係。
つまり、光子夫人以上に長い付き合いになる。
「池田家に仕えた時から、聡坊ちゃまとは・・・」
川口久雄は、とにかく、聡のいろんな姿を見て来た。
小学生の時は、「明るいだけの世間知らずのボンボン」と使用人に影口を言われ、よく部屋の隅で泣いていた。
中学生の時は、荒れていた。
(父親に、池田家に、自分の将来を決められていることに、強く反発していた)
父親に叱られ、部屋の中をメチャクチャにしたこともあった。
高校生になって、少し落ち着いた。
その分、金遣いが荒くなった。
有名ブランド服を買いあさった。
他人に「おごる」ことも、好きだった。
川口久雄は、あまりの金遣いの荒さに、先代に相談をかけた。
「良い物で目を養い、他人と付き合う目も養われる、池田はそんなことでは潰れない、そのままでいい」とされ、不問にされた。
大学時代も似たようなもので、よく遊んでいた。
雀荘に入りびたり、佐野好男に負け続け、結局雇うことになった。(夜の運転手限定)
大学卒業後は、当然、池田商事の常勤役員。(最初は副会長)
すぐに見合いで、光子夫人と婚約、結婚。
(仲人は、中央区出身の参議院議員)(先代の飲み仲間)
結婚当初から、浮気を繰り返した。(光子夫人の真面目で堅実な性格と合わなかった)
「親父もあちこちで遊んでいる、言われる筋はない」が口癖。
あちこちの「夜の女」に手を出した。
しかし、全て、「関係」は短かった。
池田聡自身が、飽きっぽい性格であること。
付き合った女からすれば、聡は、「軽くて、中身がない、金だけ」の男だった。(とても何回も逢いたいと思わない、寝たいとも思わない)
先代が亡くなり、会長職に就いても、その軽い性格は変わらなかった。
経営は、全て社員任せで、言われるがままに決裁をするだけ。(何も考えていなかった)
夜の接待でも、先方からの「無理難題の値引き」を、酔った勢いで「簡単に」受けてしまう。
実際、聡が会長に就任後は、池田商事の経営は、ジリ貧。
先代からの資産を食いつぶしている状態だった。
(聡は、気にしていなかった)
(そもそも経営管理資料も、よく読めなかった)
状況が変わったのは、田中圭太が入社後だった。
翌年の決算から、大幅な黒字を出した。
報告されたのは、為替部門の見直しが、功を奏したとのこと。
(実際の営業実績ではない)
(国際部長は田中圭太からの進言、提案を受けて、商品構成を見直した)
(売れる商品の輸出入に特化し、不良在庫を減らした)
(田中圭太の提案と言ったが、役員会報告では決裁した自分の功績と言い切った)
執事長川口久雄が、池田家と田中圭太の関係を知ったのは、実は「圭太が生まれた時」から。
(常に、里中律子の動きを探っていたから)
先代にも、その旨報告した。
「いつかは、戻す場合もあるから、圭太から目を離すな」との返事だった。
(聞いた時は、呆れて、恐ろしくもなった)
(華代様が、お金のために、律子様を手離したことも知っていたから)
(そもそも、その仕掛けをしたのは、先代だった、それも知っていた)
川口久雄は、そんな、いろんなことを思い出しながら、今は脳梗塞で苦しむ池田聡を見つめていた。
その池田聡の口が、動いた。
「川口さん」(しっかりとした発音だった)
「はい!何なりと」
「圭太君は元気か?」
「はい、立派に働いています」
「逢いたいなあ」
「はい」
「話がしたい、連れて来てくれ」
「はい」
「生きている間に、言っておくことがある」
「まだまだ、元気ですよ、大丈夫ですよ、聡様」
「頼むよ、川口さん」
池田聡は、目に涙をためている。
当主に「頼むよ」と言われては、抗せない。
池田家執事長川口久雄は、スマホを手に取った。
そのまま、「圭太様」をタップしている。
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