第200話圭太は池田を遠隔操作しているのか?

圭太が定時に銀座監査法人を出ようとした時、紀子が声をかけた。

「少し時間欲しいの」


紀子は、怪訝な顏をする圭太に間髪入れず、続けた。

「芳香ちゃんには連絡済み、それから佐藤由紀も同席する」


圭太は、ようやく反応した。

「何が何だかわからないが、事前に言って欲しい」

紀子は、引かない。

「休憩時間中に連絡したの」

「圭太は、監査に夢中だったでしょ?」


場所は、銀座監査法人の小会議室。

用件は、「池田商事」の件だった。


紀子が切り出した。

「圭太としては、どうしたいの?」

「池田側では、会長招請とか、いろいろで」

「世間の噂にもなっているよ、役員が言いふらしているみたい」

佐藤由紀は、不安な顏。

「圭太さんは、戻らないと言っているけれど、それで大丈夫なの?」


圭太は、紀子と由紀を手で抑えた。

「結論は、変わらない」

「池田の都合は、関知しない」

「俺は俺なので」

「光子会長代理にも、その旨伝えてある」

「銀座監査法人の役員にも、当然、そう伝えてある」

(芳香は静かに頷いている)


圭太は続けた。(表情をやわらげた)

「それでもなお、池田光子さんは、ご存知の通り、築地の歴史ある割烹の娘」

「あまり、酷い対応もできないと思った」

「ただ、切り捨てるだけも、いかがなものか、それも考えて、少し意見を言った」

「あくまでも、元社員の酒場での戯れ口程度だ」

(芳香も、少し笑う)


紀子は圭太の目を覗き込んだ。

「それで、何とかなるの?」


圭太は、真顔に戻った。

「当面は、大丈夫と判断している」

「光子夫人は、理解も速い、対応も」

「さすが名門割烹の娘と思うよ、情にも厚い人」


由紀は意味不明なので、圭太に突っ込みを入れる。

「言える範囲で言って欲しいんです」

「モヤモヤさせないでください」


圭太は、苦笑い。

「たいしたことでない」

「光子さんも47歳、まだ若い、仕事は続けられるということ」

「池田商事の経営の把握のために、バリバリの総務職員に研修をさせる」

「具体的には、総勘定元帳を毎日説明させる、もちろん、他にも関連して」


紀子は、これには笑った。

「圭太らしいよ、その発想」

「でも、総勘定元帳が読める経営者も、少ないかな」


由紀は、圭太に、また突っ込んだ。

「圭太さんが教えない方がいいかな、怖いから」

「こんなことも知らないの?とか言いそう」


圭太は、首を横に振る。

「それは、由紀さんが、会計士の資格を持っているからだよ」

「そうでない人には、丁寧」

「ただ、池田の経営状況は、池田の総務が説明するのが当然」


紀子は、圭太の目を覗き込む。

「でも、圭太が池田を遠隔操作するような気もする」

「圭太から光子夫人を介して・・・もう始まっているのかな」


圭太は、答えない。

スマホにメッセージが入ったようで、それを読んでいる。

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