第198話圭太は、「母の出生」を、芳香に話す。

夕食後、圭太がソファで新聞を読んでいると、芳香が隣に座った。

「圭太さん、少しお話聞きました、お疲れ様でした」


圭太は、「佐野好男の一件」と察した。

「ああ、ごめんな、心配かけて」


芳香は、首を横に振った。

「私は、何があっても圭太さんについて行くだけ」

「鰻、美味しかったです」

(圭太は食べきれる自信がなかったので、芳香と一緒に食べた)


圭太は、柔らかく笑う。

「特上だったね、さすが光子さんだ」


芳香がじっと見つめて来るので、母律子の「出生」を説明しようと思った。

(苦楽を共にするべきと思った)(芳香の強さを信じた)


「芳香、驚くかもしれないが、本当のことを言うよ」

「いつまでも隠していても仕方がない」

「隠すべきことなのかもしれないが」


母律子の出生。

(元大蔵省幹部里中寛治と池田商事創業家の池田華代の子)


圭太にとっては、祖父になる里中寛治と、実の祖母池田華代は恋仲で、結婚の約束をしていたこと。

(池田家も里中家も、当初は認め、華代の妊娠も喜んでいた)


しかし、池田商事の先代が、海外投資に失敗。

その借金肩代わりを、貿易商の宮田隆が申し込んで来た。

(条件は、池田華代との結婚、池田の乗っ取りの思惑もあった)


その話を簡単に受け、池田商事の先代は、華代の恋愛や腹の子は無視した。

池田商事の多額の借金の返済を優先した。


結果として、里中寛治に、池田華代との娘、律子を押し付けた。

ただ、里中寛治には、すでに次の相手がいた。(華代との結婚を諦め、華代の親友であった由美と結婚していた)


里中由美は、最初は律子を受け入れなかった。

(不倫の子としか思えなかった)

しかし、里中由美の母が説得し、律子を受け入れた。

(池田華代と律子、池田光子は、時々逢っていたらしい)も、つけ加えた。


圭太が話し終わると、芳香は、大粒の涙。

そのまま、律子の仏壇、位牌の前に立ち、手を合わせて泣いた。

「お母様・・・」それ以上の、言葉にならない。


長く泣いて、圭太の隣に座った。

「ようやく、圭太さんの気持ちがわかりました」

「ありがとうございます」


圭太

「あまり、他人に言える話ではない、言うべきどうかも」


芳香は圭太にしっかり寄り添った。

「圭太さんの判断が好きです」

「言ってくれてうれしい」

「私も、誰にも言いません」

「お母様が可哀想過ぎる」


圭太

「生きている時は、母さんは何も言わなかった」

「俺は、その心を重んじたい」

「里中寛治と里中由美の孫でいい」


芳香は、圭太の手を握った。

「その上で、何か考えています?」

「池田が圭太さんに期待していることは、事実なので」


圭太は、顏をしかめた。

「俺は・・・」

「俺が言うべきかどうかも含めて」

「光子さんは頼って来るし、嫌いになれないから」


芳香

「光子さん、下町の女性ですし、江戸の心意気を持った人」

「尊敬しています」


圭太の目が、突然パッと大きく開き、芳香の言葉に反応した。

そして、笑った。(実に自然な笑顔で)

「江戸の心意気か、面白いことを言うよ」

「あまり、今さら、ゴチャゴチャと考え過ぎるのも、良くない」

「江戸の総鎮守に聞きに行くかな」


芳香も輝く笑顔。

「総鎮守って・・・もしかして?」

「神田明神様?私、大好きです」


圭太は笑顔で頷いた。

「あそこの芝崎納豆も懐かしい」

「甘酒もいいな」


芳香も乗った。

「安産のお守りも買います」

「圭太さん、覚悟してください」


圭太が、驚くスキに、芳香はそのまま圭太の唇を奪っている。

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