第197話紀子は圭太を心配する。

私、紀子は、圭太が心配だった。

とにかく、見たことも無いほどの不機嫌な顏で戻って来たのだから。


「圭太?大丈夫?聞くよ」

おそらく、圭太は、芳香には本音を言わないと思った。

圭太は、芳香を大切にしているから、「心配させるようなこと」を言うはずがないと、私は思った。

(ただ、自分に対しても、簡単には言わないと思ったけれど)


圭太は、顏をしかめて、椅子に腰をおろした。

「ああ、ごめんな」

私は、椅子に座ったまま、圭太に近寄った。

「そこで苦しまないでよ」

「しっかり食べられなくなると、芳香ちゃんが困る」

(我ながら、妙な理屈だ)


圭太はため息だ。

「何と言ったらいいのやら」


私は、足を軽く蹴った。(圭太はかわせなかった)

「それじゃ、誰もわからないよ」

(おい!一人で苦しむな!私がいるでしょ!)


圭太は、遠回しも遠回し、全く理解できないことを言った。

「俺は、鬼と言われるかな」

「佐藤由紀には、氷の柱って言われたな」

(・・・?そういう雰囲気はあった)(対佐藤由紀では)

(私には、からっ風かも)


回りくどいので、正面突破をしかけた。

「要するに池田のことでしょ?」

圭太は、丸い目だ。

(丸い目は好きだ、この状態の時に、論破したことがある・・負け越したけれど)


圭太

「そうか、見抜かれたか」(おい!馬鹿にするな!このボケ!)


私は、冷静に迫った。

「圭太は帰らない、そうなると創業家からの会長はいなくなる」

「でも、それで圭太が、困っているわけではないよね」


圭太は、ようやく話を始めた。

(ここまでが、いつも面倒、このアホ圭太!)

「俺には帰る理由がない」

「池田の事業に興味はない」

「入ったのは、若気の至り」

「そもそも、血がつながっていたなんて、辞めてから知ったことだから」

そこまで言って、圭太は、また、ため息だ(多過ぎる!それ)

そのうえ、時計を見て、手をヒラヒラと振った。

(要するに仕事に戻る、のポーズ)


圭太が話を中断させようとするから、私は粘った。

「芳香ちゃんに言えないことでも、私には言えるでしょ?」

「その時間、取って欲しいの」

(そうしないと、こっちがモヤモヤする)


圭太は、苦笑い。

「もう少し、俺も考えをまとめてから、まだ固まらない」

私も納得した。

「うん、任せる」

(あまり粘ると、圭太はまた機嫌を悪くするから、やめた)



その後の圭太は、監査に集中した。

注目したのは、営業研修費だった。

「紀子・・・こいつ、知っている?」

私は、「こいつ」のホームページを見た。

「うん、営業コンサルタントだよ、企業成績アップに貢献します、着実な成果とか」


圭太は、稟議書を見て、プッと吹いた。

「まったく・・・酷いな・・・メチャクチャに高い、料金が」

「3千万が最低で、出来高報酬、成約一件ごとに10万追加」


私は、直近の営業成績表を見た。

「驚いた・・・億を超える?マジ?数字を見て尻を叩くだけで?」


圭太は、嫌そうな顔。

「欠陥住宅を売らせながら、尻を叩いて営業を苛めて、億だ」

「契約も1年、後は野となれ山となれ、こんないい商売はない」

「指摘するのも難しいな、パワハラ、モラハラ・・・」


私も考えた。

「コンプライアンスからだと、具体的な事実と直結しないと、難しい」


圭太は、腕を組んだ。

「気に入らないだけでは、指摘はできない、確たる不備がないと・・・欠陥住宅を知りながら、売れと言えば、問題かな」


私は圭太に聞いた。

「営業にヒアリングする?」


圭太は、静かに頷いた。

「欠陥住宅の件もある、聞くよ」


「仕事では、キャッチボールが上手く進む」と、思う。

私、紀子は本音として、「池田のこと」でも、圭太に協力したくて仕方がない。

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