第195話執事長川口久雄は、佐野好男を問い詰める。

東京都杉並区浜田山の高級住宅街、その中でも約500坪の広大な敷地。

その敷地に、池田商事の会長邸がある。

建物としては、住宅2棟と、大きな蔵が一つ。

住宅は、現会長池田聡名義のものと、故池田華代のもの。

(両方とも建坪では100坪を越える)

池田家としての使用人(執事等)は、合計10人。

(執事4名、料理人3名、聡、光子、故華代のお世話係3名)


全般管理の執事長は、川口久雄、60歳。

先代の頃から、40年を越えて使用人を務める重鎮で、性格は温厚、真面目。

その川口久雄が、珍しく厳しい顔で、執事の佐野好男を問い詰めている。


「おい!佐野!警察から通報、光子様からも厳しいお叱りの電話を受けた」

「レクサスはどうした!傷だらけにして!」

「おい!黙ってないで、ふてくされていないで、白状しろ!」


佐野好男は、ようやく口を開く。

「全ては圭太が悪い、原因は圭太だ!」

「圭太が、俺の電話に出ねえから、キレた」

「何が、公認会計士だ、会長の甥だ!」

「所詮、里子のガキじゃねえか、偉そうに!」


執事長川口久雄は、厳しい顔のまま。

「お前、執事としての立場をわかっているのか?」

「ご当主の聡様自身が、圭太様に戻っていただきたい、と思っている」

「それは、俺も重々聞いていることだ」

「使用人が逆らうべきことか?」


佐野好男は、それでも態度を変えない。

「おかしいじゃないですか!そんなの」

「俺の育った富士宮では、そんな話は聞いたことがない」

「里子のガキを戻すなんて、恥ずかしいにも程がある」

「捨てた娘のガキでしょ?そのまま捨てておけばいい」

「俺は、絶対に認めない」


執事長川口久雄は、冷たい目に変わった。

「おい!佐野!その前に!」

「レクサスの修理代が見積りで100万を越えて」

「酒気帯びの罰金も何10万か知らんが」


佐野好男の顏が、途端に青くなった。


執事長川口久雄は、かまわず続けた。

「池田家は、払わない」

「お前が払えよ、当たり前だ、お前の不始末だ」

「そこまで面倒を見る義務はない」


佐野好男は、コロッと態度を変えた。

「執事長、そう言わずに、頼みますよ」

「何なら、会長にも俺から」


執事長川口久雄は、首を横に振る。

「それは、会長のご病状から、面会は無理だ」

「それと光子様のご意思、払えなかったらクビと」


執事長川口久雄は、下を向く佐野好男に、また、厳しい言葉。

「飲み屋のツケも、100万越えているらしいな」

「さっき、連絡あった」

「お前の女のアパート代も滞納、女も出て行ったらしいぞ」

「それも会長に頼むのか?」

「少なくとも、名誉ある池田家の執事とは、思えん」

「圭太様の会社での暴行も含めて、身の振り方を考えろ」


佐野好男の唇が、ワナワナと震え始めた。

「出ていけってことです?」


執事長川口久雄は、頷いた。

「お前の荷物は、富士宮の実家に送った」

「親父さんと、おふくろさんにも、お前のやったことを説明した」

「二人とも、泣いて謝って、家を売っても弁償しますと」


執事長川口久雄は、シクシクと泣き始めた佐野好男に、追い打ちの言葉をかけた。

「光子様が、お前を疑っている」

「会長の財布から抜いているのではと、銀行の口座の履歴を調べてたようだ」

「馬鹿におかしいと、何も買っていないのに、3千万は減っているとか」

「おい!説明して見ろ!」


佐野好男は、答えられないまま、時間だけが過ぎていく。

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